こんにちは、佐橋です。
いつも応援いただき、ありがとうございます!
年の瀬の作者フォローお礼企画としまして、今回は『ウブギャル』のSSをお届けします。
時系列はちょうど本日更新しました『第31話 帰省とホームシック』と同じになりますので、さきに本編をご覧になっていただきましたあと、こちらに戻っていただければなと思います!
それでは以下本文です。
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青霄から約5日ほど島の外である地元へ帰ると伝えられたとき、芽那は快く頷いた。
本心からすれば1日たりとも離れたくはなかったが、彼のことを考えるとこれがベストだったのだ。
見送りはあっさりとしたものだった。
船着き場までは行かず、部屋の中で済ます。
「じゃあ行ってくるね」
「いってらっしゃ~い! お土産買ってきてねぇ!」
「ははっ、わかったよ」
そう言って彼は部屋を出ていった。
すぐに背中を追いかけたい衝動に駆られた芽那。
しかし、それをグッと堪えて俯く。
ギリギリのところまで見送ってしまえば、きっともっと辛くなる。
だからこそ、なんでもないように取り繕い、この部屋で見送りを終わらせたのだ。
「はぁ……行っちゃった」
ため息をつき、ベッドへ仰向けになってころんだ。
自分の心臓の音だけが響き、見える景色がくすんでくるような気がした。
彼とこの島で再会するまでにたくさん味わった、あの寂しさがぶり返してくる。
そうやって静かに天井を見つめていると、気が狂いそうになって飛び起きた。
「あーダメ……!!」
一人でいるとまずい。
そう思った彼女は部屋を出て、愛凪のもとへ向かった。
ドアをコンコンっとノックし、声をかける。
「愛凪ちゃーん、あーそーぼー!」
するとドアがゆっくりと開く。
「なに、その小学生みたいな誘い方……」
「ねぇねぇ、遊ぼうよー!」
「遊ぶって……まぁいいや、入んなよ」
「わーい!」
芽那は笑顔を浮かべて愛凪の部屋に入った。
遊ぶ、といっても内容はガールズトークになる。
食べ物、テレビ、ネット。
そうした話題が続くが、最終的なものは一つに帰結する。
「――でね、せいちんをさー抱っこしてあげるとぉ、めーっちゃ可愛いのー!」
「アンタら部屋で何やってんの……」
「イチャイチャだよっ! イチャイチャ~! きゃははっ」
「ふふっ、あっそ」
結局、芽那は彼のことを話しているときが一番幸せそうな顔を浮かべていた。
それが愛凪にも伝わり、優しく微笑み返す。
また、愛凪も次第に彼の話ばかりをするようになったことから、芽那と同様に寂しいのだろうというのが察せられた。
互いの顔は見ることができるが、自分の顔は鏡でも使わなければ見ることができない。
二人は相手のニヤケ顔を笑いながらも、自分も同じような顔をしていることに気づかなかったのだ。
青霄のことを喋り倒した芽那は、愛凪の部屋をあとにする。
するとまた寂しさが胸の奥からジワジワと滲み出してきた。
気を紛らわそうとして愛凪と話をしたはずが、かえって彼のことを意識するようになってしまったのだ。
食堂を通りかかると、うなだれる一つの影が目に入る。
「……翠玲くん?」
彼女にはいつものようなハツラツさが微塵もなかった。
完全に抜け殻状態で、スマホの画面を死んだ目で見ている。
目を凝らして画面を見てみれば、青霄がタイマンで戦っているときの写真が表示されていた。
どうやら彼がいないことが相当に堪えているようだ。
話しかけようと一歩踏み出す芽那だったが、そこからさきは進めなかった。
自分も同じようにさっき話をして、余計に寂しさが湧いてきたからだ。
来た道を引き返す。
すると今度は小さいなにかが寝そべっているのが見えた。
「先生……かな?」
夏季休暇だというのに、なぜか教師である千咲が寮のソファで力なく寝ている。
彼女もきっと、青霄がいなくて心細いのだろう。
だから一人で家にいることに我慢ならず、ここまでやって来ている。
彼一人がいないだけで、この寮の雰囲気がどんよりとしているのだ。
去年ここへ入学したときはそんなことなかったはずなのに。
芽那はやや下を向きながら自室へと戻る。
そして布団を被り、スマホをつけた。
「連絡もできないんだよね……」
島の外へは通信する手段がなく、連絡が行えない。
せめてメッセージのやり取りさえできれば気持ちが誤魔化せるものを、それすらできないのだ。
仕方なく画像フォルダを開く。
そこには彼の写真ばかりが収められていた。
「はぁ、せいちん……」
フリックしながら、心の隙間を埋めるように写真を見る。
布団を身体に挟み込むようにして、ギュッと抱いた。
次に動画フォルダを開く。
そこにも彼の動画だけが保存されていたが、こちらは本人に許可を得ていないものだ。
こんなことをしてはいけないとわかっていても、そうせざるをえなかった。
彼のすべてを知りたくて、見ていたくて。
会えなかった時間をどうにかして取り戻したくて。
気がつけばこうなっていたのだ。
ありとあらゆる角度で、彼の姿が撮影されている。
食事する姿、寝ている姿、勉強する姿にタイマンをする姿。
シャワー、トイレ……そして寝ている芽那を見て顔を赤くする姿まで。
次第に芽那の息は荒くなっていき、顔も紅潮してくる。
身体をモゾモゾと動かし、布団を彼だを思って強く抱きしめた。
「せいちん……せいちん……」
こうなってしまうのは昔から変わらない。
もちろん、小さいときは盗み撮りなどしなかった。
彼と一緒にいた記憶。
それだけを頼りに、どこまでも妄想して寂しさを抑え続けた。
だが、彼と再会を果たしてしまってからは、さらに渇望は酷くなっていた。
ほんの少し離れただけでも、恋しくてどうしようもなくなる。
正気を保っていられず、身体が散り散りになりそうな感覚に襲われる。
もはや自分一人では御しきれないほどの、膨大な欲求が溢れてくるのだ。
「せいちん……早く会いたいよ」
目をとろんとさせながら、スマホに映った彼に頬ずりする。
芽那の青霄に対する愛は、ともにいる時間が長くなればなるほど泥のように粘度が増し、沼のように底なしのものになっていくのだった。