こんにちは、佐橋です。
いつも応援ありがとうございます。
前回から日が空いてしまいましたが、作者フォローしていただいている方への還元SS企画第三弾になります!
おそらく次のSSもすぐに出せるかと思いますので、まだ作者フォローされていない方はぜひ。
それではお楽しみください。
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犬鳴杏愛。
名は体を表すというように、彼女はまるで大型犬のような優しさと抱擁力に溢れた女性だ。
彼女は同世代の女子よりも背が高く、いつも人を見下ろしてばかり。
コンプレックスというほどでもないが、一度は誰かを見上げてみたいとも思っていた。
ここまで成長したのにはもちろん遺伝的な要因もあるが、一番はよく食べてよく寝る体質からである。
朝からガッツリと白米を平らげ、昼は重箱の弁当、間食に甘いスイーツ、そして夕食には大盛りのメインディッシュをいくつも胃に収めていく。
これだけ食べると身体にも脂肪がつく。
常人よりは太りにくいようだが、それでもお腹がぷよぷよとしてくるのは思春期の女子にとっては死活問題であった。
ただ、その嫌な部分であったお腹周りを好きだと言ってくれた人がいる。
それが神瀬遊里、杏愛の恋人となった男子である。
出会った当初は大食いであることを隠していたが、次第に隠せなくなってきた。
というより、ありのままの自分を見て欲しいと思う気持ちが強くなったのだ。
彼によく食べる姿が好きだと褒められてからは、もう箸も彼への愛も止まらない。
杏愛には食べること以外に、ある趣味のようなものができた。
それは彼を可愛がることである。
大きな身体を存分に活かし、優しく包み込んで甘やかす。
好きな食べ物を頬張っているとき以上に、多幸感に包まれた。
今日の杏愛も、彼と添い寝をしながら正面から抱きしめていた。
「今日もいい匂いがしますね~……。クンクン、はぁ……」
彼の髪の毛を嗅ぎながら、杏愛はほんのり頬を染める。
同じ家に住んで一緒のシャンプーを使っていても、彼の匂いには彼女を惹きつける何かがあった。
最初は優しくハグするぐらいだった力は次第に強まり、身体の動きも激しくなっていく。
「もっと私に甘えてください……。お顔真っ赤にして……可愛いです」
豊満な胸に顔を埋めさせると、彼の顔は決まって赤くなる。
それを知っていて、彼女は押し付けていたのだ。
互いに横を向いて抱き合っていたのが、いつの間にか杏愛が彼にのしかかるような体勢になってしまう。
膨大な肉に挟まれながら、彼は心底満足そうな表情を浮かべていた。
「お腹、触っていいですよ……」
彼の手を自身の腹へ持っていく。
柔らかい肉の感触が手一杯に広がると、彼の顔はまた一段と赤くなるのだった。
そして最近では一緒にお風呂まで入るようになっていた。
杏愛は6人用のシャワールームを作るぐらい、彼とともに入浴するのが夢だったのだ。
当然ながら動機は至って不純だ。
服越しに抱きつくより、素肌で抱きついて温かさを感じたい。
だからこそ自然にそうなれるシャワールームを作ったのだ。
もちろん、こんなことを他の人に言えるわけがない。
設計から実際の設置工事まで、彼女一人でやり遂げた。
なんならその舞台である無人島は、彼女のポケットマネーで購入し開拓したのだ。
お嬢様の集まる学校の中でも、杏愛は飛び抜けて財力を所有している。
そして人並み以上なのは財力だけではなく、努力もまた同じ。
財力と努力を掛け算し、彼女は愛しの彼に求愛し続けるのだ。
彼の家にある浴室は小さめで、みんなで入ることはできない。
ゆえに身体の大きい杏愛は、彼と一緒に入るときはだいたいが二人っきりだったのだ。
彼の髪の毛を洗うとき、彼女は胸の谷間に顔を挟み込むのがお決まりである。
「ゴシゴシ、ゴシゴシっと。髪も伸びてきましたね~。しっかり洗わないといけませんね」
慈愛の目を赤い顔した彼へ向け、優しく洗髪していく。
髪の毛が洗い終わると、次は身体を洗う。
最初は色々と慣れずに困惑したものの、今ではスムーズに行えるようになっていた。
身体を洗うときも、できるだけ抱きしめながら洗っていく。
その熱が強く伝わってくると杏愛も洗う余裕がなくなり、抱きしめることに専念してしまった。
すべて綺麗に洗い終えると、小さなバスタブで一緒に湯に浸かる。
先に杏愛が入り、その上に彼が乗っかるような形だ。
腕を彼の腹に回し、まるで自身が椅子にでもなったかのような状態になる。
「はぁ~、極楽ですね~……」
そうのんびりとしたことを言いながらも、心臓は常に跳ねている。
彼にその鼓動が伝わってしまっていることも自覚すると、さらにドキドキしてしまうのだ。
「こっち向きに……座ってくれますか?」
杏愛を見る彼は恥ずかしそうにしていたが、それでも頷く。
そのまま彼女のほうに翻り、正面を向いて抱きつく。
彼のすべての熱を感じ取り、杏愛も目を細めた。
「可愛いですね……。本当に、本当に可愛いっ……!!」
そう呟いた彼女は、食らいつくようにしてキスをする。
こうなってしまった杏愛はもう止まらない。
強く抱きしめ、湯をバシャバシャと音を立てながら深く唇を貪る。
足では藻掻く彼をしっかりとホールドした。
それはまるで絶対に獲物を逃さない捕食者のように。
口内をすべて味わい尽くしてもまだまだ離さない。
その目は犬などという可愛らしいものではなく、飢えた肉食獣のそれであった。
杏愛は筋金入りの大食らいである。
皿には一片の肉も残さない。
そして彼女にとって一番の大好物とは、他の何でもない彼なのだ。