こんにちは、佐橋です。
少し暇ができたので、ちょこちょこいただいた感想に返信しておりました。
評価などもたくさんいただき、誠にありがとうございます!
特に星は次の日にトップページに載りやすくなるとかなんとかで、大変ありがたいです。
それでは作者フォローしていただいているみなさんへの還元企画第二弾ということで、拙作「陰キャ女子~」のSSになります!
まだ作者フォローされてない方はぜひお願いします。
※前回と同じく本編59話以降のお話になります。まだそちらまでご覧になっておられない方は、まず先に読み進めることをオススメします!
それではお楽しみください。
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川名恵人。
彼女は生粋のゲーマーである。
内向的な性格もあってか、物心がついたと同時にゲームにハマってしまっていた。
好きなゲームのジャンルは一人でできるもの、つまりはソロゲーだ。
レースやミニゲームでの競争は好きだが、敵が出てきて倒すようなゲームは好まない。
家を建てたり動物たちと遊んだりする、まったりとしたゲームが好みだ。
将来の夢はそういったゆるく遊べるゲームを作ること。
プレイヤーであるだけに留まらず、クリエイターとしても活躍したいという彼女のゲーマー魂を最大限に活かせる場であろう。
先ほども触れたが、彼女の好むゲームはソロゲーである。
しかし、それがある男子との出会いで変わってきていた。
神瀬遊里。
恵人の親友であり「すずちゃん」と呼んでいる江東涼海の愛読する漫画の著者。
涼海が彼に好意を寄せているのを早々に知っていた恵人。
気がつけば自身もまた、親友と同じ人を好きになっていた。
好きになってからはあっという間に恋仲になった。
恵人はそれほど彼に惚れ込んでいたのだ。
得体のしれない男子という存在。
なのに恵人にとって、彼の側はすこぶる居心地がよかったのだ。
また、他の彼に想いを寄せる友人たちとは異なり、恵人は彼に膝枕をしながらアイスを食べさせるという奇怪な行動を好んでいる。
この日も同じように、それをしていた。
しかも文化祭でもらったメイド服を着て。
「うーん、今日のアイスかなり甘いなー。濃厚ミルクだね。ほら、口開けてー」
そう言い、頭を持ち上げた彼の口の中にアイスを流しこむ。
「えらいえらい、フフッ……」
それから頬や頭を撫で、垂れたアイスを舐め取ったりもした。
彼女にとって、この行為自体も好んでいるものだ。
しかし一番の目的は、彼がそのときに自身へ向けてくる甘えた目であった。
恵人の容姿は地味さや俗にいう陰キャっぽさを感じさせない。
イヤーカフをしており、青いメッシュも髪にいれている。
ネイルをしている日もあったり、メイクも薄めだがしているときも多い。
なぜ彼女はこのようなファッションをしているのか。
それは実に簡単で、キリッとした顔つきやダウナーな雰囲気がそういったファッションしか受け付けないからだ。
男装をしているわけではないが、彼女のことをよく知らない女子と話すと「カッコいい」と評されることが多い。
格好をつけている自覚はなく、ただ人見知りで喋らないだけだ。
それでもそういった目で見られる。
彼女はそのことについて特に悪い気はしていなかった。
恵人の言葉を借りるのであれば「どっちもでいい」だ。
しかし、そうして見られてきた彼女に対して、初めて「可愛い」や「甘えたい」といった目を向けてきたのが彼だった。
言葉だけではなく、目で心に訴えかけてくるその様子に恵人はメロメロになっていたのだ。
「……もっといっぱい吸っていいよ」
そう口元をちょんちょんっと撫でながらからかうと、彼は顔を赤らめてアイスを吸う。
それが恵人にとって愛おしくてたまらず、ギュッと胸の中に抱きしめてしまうのだった。
彼を見つめる彼女の目は、誰の目から見てもゾッコンな様子がわかるほどだ。
幼馴染の4人も恵人の変化に驚きながらも、彼を一緒になって甘やかしていく。
もちろんこの妙なプレイだけではなく、日頃はゲームも一緒にしている。
だからこそ、彼女の好むゲームはソロゲーからマルチプレイのできるゲームへと変わった。
もちろんオフラインの、二人だけでの世界で楽しめるものだ。
ゲームをするときは画面を見なけれならないはずなのに、気がつけば恵人の視線は彼に送ってしまっていた。
「えーっとこれどうやるんだっけー。あー……忘れちゃったな。……ねぇ、教えてくんない?」
べらぼうに上手いのにもかかわらず、わざとわからないフリをして彼に教えを請うたりもした。
そんなあざとい女の子のテクニックは、以前の恵人からしてみれば考えられないものだ。
彼女の策を知ってか知らずか、オタク気質の彼は得意気に教えてくれる。
その顔を甘えた目で見ながら、一緒にゲームをしていくのだった。
そう、恵人は甘えられるのも好きだが、甘えるのも好きになってしまったのだ。
もっとベタベタにくっついて、もっと色々なことをしたくなる。
彼がまだ誰にも見せたことのない顔を見てみたい。
だからこそ、彼女は告白されてすぐに『結婚』の話をした。
目に見える形で、彼とずっと一緒にいられることを確信したかったからだ。
結婚という契約の鎖で、がんじがらめになってしまうほど密接でありたいと。
なんでも一人でやってのける彼女が知らなかった、甘えて甘えられる感覚。
その味を一度でも知ってしまえば、もう元には戻れない。
クールな彼女の心のうちに燃える愛は、彼の隣で過ごすたびに激しくなっていったのだった。