こんにちは佐橋です。
かねてからお知らせしていたように、日頃作者フォローしていただいている方へ向けて感謝の意味を込めまして『陰キャ女子たちが俺のボロアパートから出ていってくれない~一夫多妻が推奨される世界で始まるワンルーム共同生活~』のSSを書きました。
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※時系列的には本作の60話以降のお話です。まだご覧になっていない方は、まずそちらまで読み進めておくことをオススメします。
それでは以下本文です。
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江東涼海。
夏の終わり、そんな涼しい日の海のような穏やかな子に育って欲しいと名付けられた名のとおり、彼女は優しさの塊のような女性に育った。
絵を描いたり可愛い動物を見るのが好きで、将来は自身のデザインする動物をぬいぐるみとして販売するのが目標である。
仲のいい友人の女子4人は幼稚園からの仲であり、高校生に至る今までずっと一緒だ。
そんな彼女の小さな交友関係に、ある男子が加わった。
彼の名は神瀬遊里。
涼海の愛読書『週刊くま日和』の作者であり、初めてできた恋人でもある。
彼女の日常は、彼と出会ってから非日常へと移り変わった。
ではそんな涼海の、とある一日を覗いてみるとしよう。
『週刊くま日和』の作者公認、栄えあるファン一号の朝はとにかく早い。
まだ外が薄暗いなか、布団の中でスマホの電源を点ける。
漫画の更新は昼休みに重なることを考えてか昼なのだが、涼海には朝起きて早々やることがあるのだ。
「へへっ……昨日の回も可愛いかったなぁ、くま……。うさぎと一緒にベンチで座ってるシーンも……ううー! ふふふふーっ!」
薄いピンク色をしたプリンセスベッドの上で、彼女は嬉しさに悶えていた。
涼海が朝起きて一番にすることとは、『週刊くま日和』を読み返してニヤニヤすることである。
これは彼女にとって欠かせない習慣になっていた。
「ここのお菓子食べてるシーンって……この前の部活のときのことかなっ? 神瀬くんがあーんしてくれたときの……へへっ。くまもうさぎにあーんしてるしっ……!!」
元から起床したときに漫画を読むことはあった。
だが彼と出会ってからは作中の『うさぎ』に自身を重ねて悶えることが多くなったのだ。
こうしてエネルギーを補給してから、彼女は登校するのだった。
授業中は真面目に聞いていることが多い涼海であったが、頭の中は彼のことでいっぱいだ。
「……んへへっ。……あっ!」
平静を装いつつもつい表情に出てしまい、周りをキョロキョロと見回してから恥ずかしそうに俯く。
それを友人たちも共感しながら、微笑ましくも思っていた。
昼休みにはみんなで弁当を食べるのだが、愛しの彼はここにはいない。
だが当番のようにして弁当を作り、渡していることもあった。
そんなときは彼がどんなふうに食べているのだろうと想像しながら、一緒に食べている気分でおかずを頬張るのだった。
授業が終わり部活の時間になれば、友人たちとともに急ぎ足で彼の家へ向かう。
一分一秒でも早く辿り着き、できる限り一緒にいたいのだという想いを胸に。
部活中、その視線は彼に注がれる。
「へへっ……んへへっ……」
涼海の目の奥には星の数ほどのハートが溢れ、それは彼にもしっかりと伝わっていた。
だからこそ彼女が甘えるような動きをすると、それを受け入れてくれていたのだ。
ともに絵を描きながらも、手を絡めるようにして繋いでしまう。
その手が自然に彼の利き手とは逆の手になるように座るポジションをとるのは、彼女の気が利くところだ。
彼は利き手で絵をしっかりと描くことができ、涼海は利き手で触れ合う温かさを確かに感じられていた。
涼海は彼と初めてキスをしてから、すっかりそれがやみつきになってしまっている。
彼を目にすると唇を合わせたくなって仕方なくなり、居ても立っても居られないのだ。
友人がいても滾るような衝動は抑えられず、家の中であれば堂々と唇を合わせる。
「んっ……」
その瞬間は、彼女にとってこの世で一番幸せな時間だと言っても過言ではなかった。
告白されてキスをせがんだあのときから、この一瞬への愛おしさは続いている。
キスをすること。
それは互いに愛し、愛されていることがもっとも実感できる行為であると涼海は思っているからだ。
彼の家に泊まることも多いが、運よくその隣をゲットできた日には凄まじいキスの応酬が繰り広げられる。
唇を交わして、とことん愛に満たされた状態で眠る。
そうすれば夢の中でも彼に会えると思っていた涼海だが、実際には安心しているせいで熟睡してしまい夢を見るのは稀だという。
ただその見る夢はいつも同じだった。
白いタキシードを着た彼の前に、友人とともに花嫁姿になった涼海。
式場の席には、ぬいぐるみたちが座って祝福の歌をうたう。
ステンドグラスから光が差し込む中で誓いの言葉を立て、永遠の愛を証明するように唇を交わす。
目を開ければ消えてしまう夢想。
それを単なる夢物語で終わらせないために、今日も涼海は彼にアタックをするのだった。