今日は日曜日。会社は休み。
ちなみにあの焼肉大会の日から二週間が経過していてた……。
米だけはつむぎさんが確保してくれていたので、とりあえず飢えることはなかった。
問題はおかずがないことだが、意外とこれはこれでなんとかなっていた。
何と言っても新婚生活。つむぎさんがいて、クリリンがいて、食卓はいつも楽しかったのだ。
涼しい秋風に誘われて昼寝でもしようかな、なんて思っていると不意に呼び鈴を鳴らす音が聞こえた。
なんだろう? 胸騒ぎがする。まさかNHKのトリタテとか? いや、でもこの部屋にテレビはない。
「はーい、どちらさまですか?」
つむぎさんが扉に向かって声をかける。
と。
「ボンジュール、つむぎ。お父さんデス、パリから戻ってきましたデス!」
「え? お父さん!」
扉を開けると、そこにつむぎさんのお父さん『火垂(ほたる)』さんがいた。
実は直接会うのはこれが初めて。
結婚のあいさつの時も、コロナ禍ということもありWEBで会話しただけだったのだ。
「おお、ムッシュ・アキラ、始めましてだねぇ。元気だったかい?」
という辺りでお分かりと思うが、お義父さんはフランスで暮らしている。
スラリとした背丈、丸縁の眼鏡と高そうなスーツとコートという出で立ちである。
鼻の下にはちょび髭もはやしており、いかにも芸術家という雰囲気なのだが、実際に自称芸術家とのことだった。
「初めましてお義父さん、お義父さんこそお元気そうでなによりです」
「よろしく、アキラ君。ところで、なにか食べさせてくれないかな? なにしろパリから戻ったばかりで」
はっ。僕はその瞬間固まってしまった。
どうしよう? 米しかない。
が、つむぎさんは違った。
「だったらお父さんの好きなアレ、作ってあげるね!」
「おお、アレと言ったらアレだね。久しぶりだな」
あれって?
と無言で聞いてみると、つむぎさんはかわいいウィンクで答えてくれた。
つまりは食べてのお楽しみってたことね。
「まぁとにかくどうぞ、上がってください」
それから机に案内し、二人で向かい合って座る。
しかしながら、なんとも話の糸口が見つからない。
そんな雰囲気に気づいたのか、クリリンが火垂さんの膝にぴょんと飛び乗った。
「おお、かわいいマドモアゼルですね、名前はなんというんデスか?」
「クリリンといいます。最初から懐くなんて珍しいんですよ」
「私はネコ大好きですからね、きっとわかるんでしょう」
なんて言ってると、クリリンはお義父さんの髭に手を伸ばしてチョイチョイとやっている。
それを嬉しそうに眺めつつ、クリリンと上手に遊ぶお義父さん。
ちょっと妬けるけど、クリリンは本当にお父さんが気に入ったみたいだった。
「あり合わせなんだけど、みんなで食べましょう!」
そういいながら、つむぎさんが大皿をもって現れる。
そのお皿に盛り付けてあったのは、なんとお好み焼きだった!
「すごい! お好み焼きかぁ、そんな材料あったんだね」
「ふふふ。これお好み焼きに似たネギ焼きをさらにアレンジした『もやし焼き』なんです」
「もやし焼き?」
それにこたえてくれたのはお義父さん。
「コレだよコレ。もやしを炒めて、クレープ生地で包むのさ」
(クレープ? 似てなくもないけど)
「まぁ食べてみるといい、つむぎの作るもやし焼きは絶品だよ」
「元々は母さんの得意料理でね。アキラさんも気に入ってくれると嬉しいな」
照れくさそうにつむぎさん。
となればおいしいに決まっている!
ちなみにたっぷりの鰹節と青のり、オタフクソースとマヨネーズのマリアージュで、まさにお好み焼きそのものだった。