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決して描かれない実情

 目が覚めると、私の胸はぎゅっと締め付けられるような感覚で満たされていた。夢の中で茉凛に包まれていた温かさは、今や冷たく重い現実に変わっていた。下腹部に感じるぬめりと湿り気。これが男の子の体にとって自然なことだと理解していても、やりきれない罪悪感と嫌悪感が私を支配していた。

「……またか……」

 布団の中で握りしめた拳が震え、やるせない気持ちがこみ上げる。夢の中で感じたあの優しさが嘘みたいに冷たく色あせていく。私はそんな夢を見てしまったこと自体に嫌悪を抱き、茉凛の純粋な微笑みを汚してしまったかのような感覚に押しつぶされそうになる。

 どうして、この体は勝手にこんな反応をするのだろう? 自分ではない何かが、私の心の奥まで侵しているようでたまらない。思わず視線をそらしてしまうが、それでも不快な感覚は体にまとわりついたまま離れない。弓鶴の体で生きることの意味が、こうして否応なく突きつけられる瞬間があるなんて、知識としては理解していても、とても受け容れられるものではない。

「もういやだ……こんなの……」

 立ち上がり、足早にシャワー室へと向かう。冷たい水で洗い流すたびに、少しずつ嫌悪感が薄れていくことを期待しているのに、心の奥にはまだ小さな汚点が残る。かつて女だった私には、どうしても受け入れがたい感覚だった。この体が示す衝動や反応が、私の意志に反して起こるたび、自己嫌悪の波が押し寄せる。

 私はしばらく目を閉じて、冷たい水を感じながら必死にこの嫌悪感を洗い流そうとした。身体を包む水は冷たく、少しだけ心を落ち着けるものの、心の奥に潜む苦しみは一向に消えない。無限に続くようなこの葛藤は、私の存在を脅かす。


「どうしてこんなことになっちゃたの……」

 小さな声で呟き、再び水を浴びる。冷たさが全身を走り抜け、その瞬間だけはこの不快な感覚を忘れさせてくれる。しかし、夢の中の幸せと現実の苦悩が交錯し、私はただその狭間で立ち尽くすしかなかった。



 内気で真面目で性的なことにほとんど興味がなかった美鶴が、弟の弓鶴の体に憑依した時、そのギャップからくる葛藤や困惑は非常に大きかったです。罪悪感や嫌悪感は、彼女のアイデンティティや自己理解を根底から揺るがす要因となっています。

身体と心の不一致
 美鶴が夢の中で茉凛の温かさを感じた後、目覚めた際に直面する冷たさと現実感は、身体と心の乖離を象徴しています。この感覚は、彼女が自分自身を再認識する過程で生じる混乱を際立たせています。

自己嫌悪の深まり
 身体が勝手に反応することに対する嫌悪感は、彼女の心理的な抵抗を強調し、自己嫌悪が深まる様子が描かれています。このような苦悩は、彼女が持っていた価値観や倫理観に反しており、彼女自身のアイデンティティを脅かす要因となります。

冷水のメタファー
 冷たい水を浴びることで嫌悪感を洗い流そうとする美鶴の姿は、彼女が直面している感情の整理を象徴しています。しかし、冷水が心の苦痛を完全には取り除けないことから、彼女の苦しみが深いことを示しています。

夢と現実の交錯
 夢の中の幸せと現実の苦悩が交錯することで、彼女の心の葛藤が一層明確になります。この対比は、彼女がどれほど理想の世界を求めているか、またそれがどれほど難しいことであるかを際立たせています。

茉凛との関係の影響
 美鶴が茉凛の無垢な笑顔を汚したくないという気持ちが、彼女の苦しみを一層深めています。これは、彼女が他者との関係をどれほど大切に思っているかを示しています。

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