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駄文2

 あまり良いとは言えない思春期を過ぎた辺りの燃えカス。未だ、何もかもをきちんと卒業できなかったような、そういう時期にとあるスーパーで働いていた。
 若いレジのアルバイト達の輪にも入れず、かと言って年上のパートのおばちゃん達とも打ち解けず。そういった職場で一時期、とても仲良くしてくれた年上の女性がいた。あけすけで、ざっくばらん、そんな感じの人。
 彼女は人妻であったが青果コーナーの若い社員に恋をしており、仕事明け、ドーナツショップやカラオケに誘われては、やれ、可愛いだの、こんな話をしただの、所謂、惚気ばなしを聞かされたものだ。
 その頃は、彼女に誘われる以外はほとんど出かけず、本ばかり読んでいた。遅ればせながらの読書。何を読んだらいいか分からず、表紙の雰囲気、タイトル、最初の一行を目安に買っては読み漁った。女性作家のものが多かったと思う。
 ある時、家に置いてあった家族所有の本を読んだ。世界初の人工衛星の名を冠した、黄色い背表紙の文庫本。それまでのはっきりとした恋愛ものや、冒険もの、SFと違い、最初掴みどころがなかったが、なかなかに面白かった。その有名作家さんとの初遭遇は好印象だった。
 次にその作家さんのベストセラー上下巻を購入し読んだ。舞台設定は幾分前、ちょっとスカした同年代の主人公の一人称は愛称よく読みやすかった。美しい描写、物悲しい空気感。とても夢中になった。
 そして、読み終わった時、なぜか猛烈な喪失感のようなものに襲われた。誰かと今すぐ何かを話さないと、体がバラバラになってしまうような。背中から胸にかけて大きな穴が空き、そこから大事なものが流れ出てしまうような。
 誰か。でも、誰も思いつかなかった。そこで、その時期仲良くしてくれた件の女性に電話をかけたのだった。よっぽど焦っていたのだろう、携帯電話でなく、家電にかけてしまった事に電話口に出た旦那様の声で気づいた。変に取り繕っては、と思い、同じ職場でお世話になっているものである事、突然電話して申し訳ないと謝罪して彼女に電話を代わってもらった。聞くところによると、今から旦那様のご実家に行く間際だったそう。とてもタイミングが悪かった。きっと帰省の車中、気まずかった事だと思う。たいした話もせず電話を切ったが、人と話して幾らか救われた気がした。

 程なく女性はスーパーを辞め、それから一度も会ってない。あの時、衝動的に電話をかけさせた本は、今も毎年数回読む。あの時程の衝動はもう生まないが、それでも読むたび新しい発見、違った視点、美しい描写への感動、そういったものを授けてくれる。
 一番好きな本、と言われるとそういうわけではない。たまたま心情的にそういうタイミングだっただけかも知れない。
 それでも読み終わったあとで、すぐに誰かと話をしないと自分がなくなってしまうような感覚を呼び起こした本は他になかった。今も。

 本のタイトルはノルウェイの森。昨日辺りからSNSなどでボロクソに言われている本だ。
 だからどうこう、と言うわけではありません。
 ちょっとした思い出ばなし。
 ただ、それだけです。
 では、また。


 ああ、そうだ。そんなぬりやが書きました、ノルウェイの森のパロディ。置いておきます笑
「彼女がそうすると分かっていて」
https://kakuyomu.jp/works/16818093084861083253

 連休中のお暇つぶしにでもぜひぜひ。

10件のコメント

  • 私は人を書きたい。
    ぬりや是是さんは状況を書きたい。
    根本的に異なるから、惹かれるんでしょうね、私。
  • 先ほどXを見たら、ちょうど「村上春樹」がトレンドに上がっていて、トピックの欄に「ノルウェイの森」がありました。まぁ悪評の話題だろうと開いてみると、案の定、否定的な意見ばかりが目立っていました。
    私が初めて読んだ村上作品なのですが、発表当初から「気持ち悪い」「つまらない」などの声が多かった事を知り、驚きました。私はこの本が大好きです。濃い緑と真紅の表紙は未だ保管していますし、作中で出てきた「グレート・ギャツビー」は読んだその日中に購入しました。
    だから何だと言われれば、特に何でもないのです。他人様の読書と解釈にケチをつけられる筈もなく、創作物である以上、批判があるのは当然だとも分かっています。
    でも、やっぱり悲しい。
    隅から隅まで私事のコメントで申し訳ないのですが、この近況ノートを拝読させていただき、どうしても書きたくなってしまいました。内容の無い長文を投下してしまい、ごめんなさい🙇
  • あら、かえでさん。
    ありがとうございます、お恥ずかしい///
    人を書くのはホントに難しいです。
    自分の事すら未だ分かってませんから笑
  • 冬手さん。
    コメントありがとうございます。
    どうこうってことはないんです笑
    書いてくれてありがとう、読ませてくれてありがとう。
    それだけの話です♪

    あ、ノルウェイの森お好きだとの事。
    良かったらパロディ読んで下さい。
    笑えますよ♪
  • 「スプートニクの恋人」から入ったんですか~
    あれは(彼にしては)読みやすいしおもしろいですよね。
  • 今はカクカク時期で、ヨムヨムしてなくて感想書いてませんが、ノルウェイは完読します!

    なんか近況ノートそのものが小説になりそうですね!

    音楽ですが、私は都山流尺八をやってまして、人間国宝の故 山本邦山が好きでして。
    彼をきっかけに尺八を始めましたw
    もし良かったら、聞いてみてください!
    なんか、芸術超えて個性で、もう二度とこんな演奏ができる人は出ないのかな、と勝手に思ってるw
  • 祐里さん♪
    そうなんです。まずタイトルからして可愛いですもんね。
    それまでSFか現代ドラマ的なものをよく読んでいたので、最初何が起きてるのか分からなかったんです笑
    今も分かってないかもですが、ヒロインも魅力的だし帰ってきますしね(重大ネタバレ)
  • 千織さん♪
    ちょっと忙しいのと今は工芸の方に感性を向けないといけないので(なにせ今月締切笑)きちんと小説書き上げれる余裕がないのです。
    それでも書いていないと訛りそうなので駄文を連ねています。

    尺八、いいですね。楽器好きです。
    出来もしないのにいっぱい持ってますよ笑
    フェイバリットはケーナとアフリカのなんだか分からない、たいしてならない小太鼓です笑笑
  • これは……!
    一種の、「月がきれいですね」なのでは(にやにや)。
    まあ、その人しかいなかったからなのか、その人だったからなのか、という問題もありそうですがw
  • ス口男さん、そう言われると「揚げ物屋の娘」と同じ構図かも笑
    毎晩それぞれ綺麗な月が上がりますからねぇ。
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