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現ファン1位の「帰還した勇者は性格が終わっている!」の考察とか

いつも読んで頂きありがとうございます。
皆様が読んでくださるおかげで書き続けることが出来てます。


さて、今回は普段と趣をかえて…他作者様の作品の分析です。

長谷川凸蔵先生の

帰還した勇者は性格が終わっている!~異世界から持ち帰った鑑定スキルが『個人情報開示』に進化したので、SNSのレスバ(※物理込み)で無双するなど~

が現ファン1位を取ったのでこれを思想的に分析してみようという試みです。
っていうかタイトル長ッ?!

1位になった作品から学べる物があったら学ぼう。
とりあえずそんなスタンスです。


おそらくこの作品は復讐代行系の亜流でしょうか。

ターゲットとしてる層は、読んだ感じでは……
年齢はあまり関係ないかな? 男女もあまり関係ないと思います。

この作品に共感するのに必要な要素は、「善に対する潔癖さを強く求めている」。
これだと思われます。

ようは常識を知ってる(と思い込んでる)人たち。
良い子になれと義務教育で思想の抑圧をうけた普通の人ですね。

みんな仲良く。だけど競争相手は叩きのめせ。
困ってる人、弱い人は助けましょう。でも不快な人は無視しましょう。
先生の言うことは正しいので聞きなさい。ですが悪い部分はとやかく言うな。

誰しもそういった教育を受け、思想が歪んだはずです。
こういった与えられるモノのズレに対して不満を持たない人はいません。

まあ、わんこそばみたいにやってくる仕事に対処するのが忙しすぎて、大人はこんなズレまでイチイチ気にしていられない気もしますので……。

先程、年齢は関係ないと言いましたが、すこしありそうですね。
低年齢層、中高~大学入学前の人、就職活動前、それに準じた状況の人は強い共感を覚えそうです。

この作品では悪ぶってる言動、下劣な言動をする人物。
そういった「敵」を用意して、言動にそぐわない欠点をあげつらう姿勢が基本的なスタンスになっています。

敵は改善の見込みがないもの、完全なクズとして描かれるのが、共通点です。

これは読者に心理的な鎧を用意する為でしょう。
「こいつは死ぬまで追い詰めてオモチャにしても良いやつですよ」
そんな感じですね。

◆◆◆

この作品は復讐代行系なのですが、すこし普通と違う部分があります。

それは、復讐に依頼や契約を通さないことです。
最初のエピソードは、よかれと思って勝手に復讐することから始まっています。

これがある種の発明になっています。
何でしょう?

依頼になると、利害関係が発生するからです。

復讐代行モノはある種の契約を通すのがスタンダードです。
(恨み屋本舗なんかが代表作品ですね)

ですが、依頼をする、ということはですよ?

依頼者に「アイツがムカつくからヤってほしい」という動機が無いと、依頼というアクションを起こしません。

そしてこの「動機」があると、依頼者は攻撃性を見せないといけません。
完全な善人ではなく、悪人の部分が発生してしまいます。

ですが、主人公が「よかれと思って勝手にやる」と話は変わります。
仕事から、無償の奉仕になるので。

ただまぁ……コレはかなり反社会的な思想です。

傷つけられて泣き寝入りした人間がいる! 俺も傷ついた!!
勝手にボコりに行きます!! うおおおおおお!!!!

こんな奴はひとまず牢屋にブチこまないといけません。
何とか保護とかポリコレ的な理由で暴れてるのと、基本構造は同じなので。

ジャンル的には露悪なので、これのヒントになる同様の娯楽は……。

反応集系の動画
ドロママ動画
ひろゆき切り抜き

こういったものになるでしょうか。

これには冷笑も含んでいます。
どうせアイツラなんてしょーもない連中なんだぜ
何でこんな事もわかんないのかねプッ、ププププ

つまりはシャーデンフロイデ、古来からメシウマと呼ばれる系統の娯楽です。
これがみんなの(俺の)正義だ(キリッ)

これは一見良いものに見えるのですが……ある問題があります。

左翼の主張、陰謀論にも言えることなんですが、そもそも社会は個人に対して常にいい顔をしません。
個人の幸せを実現する為に存在しないのです。

それをしてしまうと、限られたリソースを割り振るために「生きる資格」の問題が発生して、社会がそれ以外の存在を否定しはじめるからです。

これはこの作品世界でもそのまま起きています。

一方的な善意や倫理が社会のスタンダードになると、
社会そのものに弾性がなくなり、否定以外では成り立たたなくなるのです。

社会の状態、個人の状態、そして他者の状態。

そもそも幸福とは状態を形容して創造するものですので、自然状態で罪も善もありません。それは棍棒を振り上げるのに心地よい理由を探しているだけです。

ここに良い感じの結論を出せると、ただの娯楽から文化的名作になる予感がありますが……。一旦、これは置いておきます。

純粋な善をもとめる、精神的な潔癖症とでもいうのでしょうか。
善意への要求の高さが影響して、偽善を嫌う。

建前上の良心と理性によって、今の社会が周っていることを認めたがらない。
本当の善、倫理があると思い込んでる。

悪を為しながらも「イイ人として振る舞いたい」そんな雰囲気も感じます。

ちょっと話がそれますが、これをホワイト化社会の文脈で考えると、何かしっくり来るものがあります。

今の世界にでは、潔癖さへの信仰が進んでいます。それを「ホワイト化社会」と形容しています。

ですが、「ホワイト化社会」とは何でしょう?

ブラック企業よりも、ホワイト企業の多い社会は良いものだ。
そういう意味ではありません。

現実はお題目をキレイに言うが、その本質はえげつなく搾取を目的としている。
見た目ばかり取り繕うが、その裏側にはドス黒い悪意がある。

世の中は見た目ばかり取り繕っている。
この世の本音は汚いものだ。
真実とは不快なもので、暴言の形をとるのだ。

これが昭和~平成までの空気感でした。

令和の今は、それが少し変わってきました。

この世の中には理不尽なことが数多くある。
しかし私達は、それが理不尽とわかってやっている。

私達は良い事の本質を理解している(と思っている)。
間違ったことを、そのまま私の心までもが、なぞっているわけではない。

だって、理不尽をありのままとして認めたら、私達が悪人になってしまう。
自分の親や子供、友人に、説明できない悪への加担をどう説明すれば良いの?

――そう。

私達はブラック企業を憎み、ホワイトな社会を目指していないといけません。
そうでないと悪人ですから。

だからこそ、表向き悪をなしていても「美しい本音を持つ」事が求められる時代なのです。

ホワイト化社会の本質はこれです。

悪に従いながら『私は本当は良い子なんだよ、わかってよ』と訴える。

あまりにも平凡で、悪とは言えないような悪。
あまりにも巨大すぎて、変えることの出来ない現実の追認です。

このようなホワイト化する社会には誠実な人間が求められます。

そしてこのホワイト化社会では
「この人と付き合っててもメリットがないな」と理解されるとあっという間に切り捨てられます。

ブロックされ、存在しないものとして扱われる。そういった残酷さもあります。

◆◆◆

幼少からSNSが存在していた世代は「汚い現実」と「汚い真実」にストレスを感じていたことでしょう。

彼らは暴言は見て見ぬふりをするか、ブロック、着信拒否リストに入れて対処していきます。

孤独な世界に残るのは、孤独に正義の暴言を吐きまわる年老いた者だけ。
これがわかりやすい「敵」なのでしょう。

カクヨムユーザーは年齢20台のユーザーがおおよそ44%です。
絶賛、汚い真実というストレスに晒されている人が多そうです。

なるほど、「美しい本音」を持つキャラクターが受ける下地がありそうです。

いやはや、手短にするつもりでしたが、思った以上に興味深いですね。
もう少し個人的に考察を進めて見ることにします。

4件のコメント

  • おお。既にホワイト化社会に触れていたのですね。なんか、読んでいるものも、やっているゲームも似ている印象です。
  • ウス! 色々とっちらかってて、1本に整理できてませんが、突き詰めるとちょっと面白そう。

    >ゲーム
    まさか、リムワールドプレイヤー同士は惹かれ合う…?
  • もしかしたら、橘玲さんの著書も読んでます? 無理ゲー社会とか。
    若年層の社会観を知るのは、創作でも仕事でも大事なので結構研究していますが、コロナでガラッと変わった印象ですね。

    リムワールダーは惹かれ合うのかも知れませんねw
  • 無理ゲー社会は読んでませんが、7月10日の日経のインタビューがなかなかエグいですね。

    何でしょうね?
    今の子どもたちが感じるであろう予感。

    この世界は、痛みなしには生きていく資格がない。
    夢を叶えると言いながら、叶えられない人々を殺している。

    自分の人生を手放したら、他の誰かがもっと大きな山に登れる。
    そのために、痛みを肩代わりしてもらうために誰かを「推す」。

    誰かの屍の上に立って俺の人生って良かったねとは言いたくない。
    しかし、だからといって、誰かの足下に敷かれるつもりもない。

    死を選びたがる理由もわかる気がします。
    彼らが感じる虚無に何か、答えの欠片でも出せれば良いのですが。
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