10年以上も前の話になるのですが、家の近所に『朋友(パンヤオ)』という中華屋があって、僕の中では未だに中華料理店一位の店です。
しかしながら、今は閉店してしまって、悲しいかなあの店でご飯を食べることは出来ません。
町の小さな中華屋にもかかわらず、どれを食べても奇跡的に美味しかったのですけれど、中でも担々麺は本当に絶品でした。
朋友の担々麺を知ってから、色々な店で担々麺を食べましたが、あれを上回るものにまだ出会えていません。
数年前に東京に行く機会があり、某有名店にわざわざ足を運びました。
全国的にも超有名なその中華屋は、店内には高級感が満ち溢れ、店員の挙動にも風格が見られます。
やってきたウェイターに僕は、
「担々麺の汁ありと汁なしを一つずつ」
と注文を告げます。
かしこまりましたとエプロンをひるがえして去っていく彼の背中を見つつ、期待に胸を膨らませていました。
やがて運ばれてきた担々麺。
30分ほどして、二種類の担々麺を食べ終えた僕は、ひたすら呆然としていました。
(なんだこれ・・。朋友の方が断然美味しい。勝負にもならない)
そうなってくると、オーダー時には納得していた価格設定も気になってきて、倍近い値段にまた愕然となってきます。
(誰か嘘だと言って・・)
お皿を下げにきたウェイトレスが波状攻撃よろしく訊いてきて、
「お味はいかがでした?」
美味しかったとしか返しようのない問いかけとその雰囲気に、
「はい、すごく」
と僕が答えると、彼女は満足げに、にこりとして頷きました。
過去に飲食店に入って、そんな風に味がどうだったか訊かれた経験もなかったものですから、それにもびっくりして、すべてに衝撃を受けたまま店を出ました。
あー、今となっては幻になってしまった朋友の担々麺が食べたい。