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【読書感想文】朝井リョウ「何者」(ネタバレあり)

一昨日刺された虫刺されがだいぶ引いて来ました。やはりキンカンは素晴らしい文明です。ですが、そのキンカンもこの戦いで使い果たしてしまった模様。いやはや、今月は生活用品がどんどん消費されますな汗。
どうも名無之です。今日は直木賞受賞作「何者」を見ていこうと思います。さすが直木賞。その評価は文句なしの「上」でした。
それじゃあ、早速見ていきましょう!

あらすじ:就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから―。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて…。

おすすめ度:上の中(これぞ朝井リョウ!)

朝井リョウは「桐島、部活やめるってよ」で知った人も多いと思います。高校生の甘酸っぱい青春の日々とそこに見え隠れする本音を軽快なタッチで描いた本作はデビュー作ながら絶大な人気を集め、映画化までされました(その映画がヒットしたこともまたすごいことです)。
その彼がデビューから三年後に出された本作は舞台を高校から大学に移し、一人の部員の欠損から就活へテーマを移しています。

この作品は基本的にどんでん返しのようなものはありません。それよりもすごいのが、人の本音の書き方です。出てくる五人の中でも特に主人公の拓人、瑞月、隆良の心情描写が素晴らしかったです。演劇から離れて就活する拓人と、表向きは文化人を目指しておきながらも就職する隆良の考え方がこれでもか、と書かれていて個人的に共感できました。
権兵衛なんかは隆良とギンジ(演劇一本で生きてくと決めた拓人の元友人)に自分と重ねてしまったのか、かなり悶々としたそうです。本当に自分の心を丸裸にされてるようで気持ち悪くなったと敗北宣言とも取れる言葉を発していました。お互い、改めて自分を見直す機会を与えてくれたいい本だと思います。

解説で書かれていましたが、僕らのように創作活動をしてる人にとって、面白い作品だと聞かされるほど嫌な気分になるんですよね。それをこの作品は「そんなこと分かってますよ。でも面白いでしょ?」と言わんばかりに僕たちに突きつけて来ました。本当、創作してる人ほど読むべき作品だと思います。というわけでおすすめ度を「上の中」にしました。

ただ! ただ、二つ個人的に惜しいと思った箇所がありました。これはあくまで僕が読んだ上で思ったことであって、じゃあどう直せばいいかと聞かれたらおそらく答えに窮してしまうような難しい問題です(ここからはガッツリネタバレするので本作を読もうと思ってる人はここで「戻る」ボタンを押すことを推奨します)。
一つ目はラストの展開です。これをもう少しこちらの斜め上を行って欲しかった。主人公が陰で元友人たちの愚痴を言ってるのは最初の方から予想できました。その上でさらに何かをプラスして欲しかったです。じゃあその「何か」って何だよ、と詰問されたら泣いてしまうのですが、もしそれ以上のものを出して来たら本当に五体投地していました。

二つ目は拓人の上の階に住む理香です。ラストに拓人の正体を明かす役割を彼女が担いますが、彼女も拓人と同じように人の汚点を探そうと躍起になっている人物です。そんな彼女が「お前らのことを一歩引いて観察してる俺かっこいいだろ」という拓人の虚栄を否定し、「ダサくてかっこ悪い自分の姿でやっていくしかない」として、拓人に自分自身を見つめ直すよう促します。
本当に申し訳ないんですが、これに関してはほとんど同意できませんでした。人間はかっこつけてナンボです。もちろん、それは誰かから見ればかっこ悪いものでしょう。ですが、自分の姿をかっこいいと思うことは、それほど自分に自信を持っているということです。理香は「ダサくてかっこ悪い自分の姿でやっていくしかない」と言ってますが、僕から言わせれば、そう言ってる自分こそかっこいいと思ってるようにしか感じられません。

それと彼女についてはもう一つあって、他の四人はそれぞれ何かをきっかけに成長していきますが彼女にはそれがありません(少なくとも僕らは彼女が成長してる描写を見受けられませんでした)。それなのに、拓人を諭す役割を担うのは少し矛盾があったと思います。拓人が思いを寄せていた瑞月や、同居人の光太郎、それこそ彼と一番近い立場にいる隆良が言うべきであって、理香が言うべきだったとは思えませんでした。

少し話がずれてしまうのですが、amazarashiの「つじつま合わせに生まれた僕ら」と言う歌に次のような歌詞があります。

善意で殺される人、悪意で飯にありつける人、傍観して救われた命

拓人が傍観者だったかは議論の余地がありますが、自分を守るために傍観している人を否定するべきではないと思います。そういう意味ではこの小説の最後は少し疑問符が残ってしまいました。

すっげえ書いてしまいましたね汗。別に悔しかったからこき下ろしてやろうと思ってここまで書いたわけではないですよ。いや、悔しいというのは事実なんですけど、自分が疑問に思ったことを説明するにはここまで詳しく書かないといけなかっただけです。

さて、直木賞受賞作「何者」を見て来ましたがどうでしたか? 生半可な気持ちで創作してる人が読むと確実に心をへし折られる作品なので、我こそは真の創作意欲を持った者だと思う人はぜひ読んでみてください。

次の作品ですが、文庫本2冊分とかなり長いので更新が遅れそうです。気長に待っていてください。

多分、その前に「1+1=3」の反省会を載っけるかもしれません。権兵衛の許可が出ればですが。

それじゃ、また!

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