私はかなりの霊感無し人間で、オカルトマニアのくせに幽霊を一度も見たことがない。これが、前提。
私は寝るのがとても好きで、「寝る」と宣言したら5秒で熟睡する人だ。旅行で一緒した人には大抵「びっくりした」と言われる。
そんな私が、その部屋に入居してからとたんに寝つきが悪くなった。
おかしいなあ、ホームシック?
などと思ってひと月が過ぎた頃、夢を見た。
肩くらいで切り揃えた黒髪で痩せた女の人が、よくわからないけど私に向かって叫んでいた。
すごい形相ってやつで、でも何を言っているのかはわからない。
私は、直感した。
こいつのせいで寝れないんだ!!
そう思った瞬間、私は幽霊の顔面に跳び蹴りを決めた。
着地後、すぐに足を振り上げて踵落とし、続いてラリーアット。
現場は、私の夢の中である。
私の動きは、どこまでも自由だった。
そのあとはよく覚えていないが、かなりボコボコにして朝を迎えた覚えがある。
清々しい朝だった。
その日の夜から、私は不思議とぐっすり眠れるようになった。
のだが、その部屋で過ごした10年を振りかえると、幽霊と私の痛み分け生活だったように思えてならない。
思えば、よく物が落ちる部屋だった……私は疲れるとドジっこ属性を発揮するから気にならなかったし、プラスチックな容器を愛用。
思えば、なぜかよく玄関のドアがコツコツ音がしていた……平気で夜中にほんとにあった怖い話を見る程度にはきにしてなかった。
思えば、ピシイ! 等と家鳴りがする部屋だった……そんなもんだと思ってた。
なんでか、やたら隣の入居者がひどくて、結局私は寝不足の10年を過ごすことになった。
転居した今になって、あの部屋に幽霊がいた気がしてならないんだよね。