俺の率いるジャガー男爵領輸送船団は、旧型の輸送船が五隻、旧型戦艦一隻の編成だ。
戦艦の名前は『ジャガーノート』。
戦艦ジャガーノートは、帝国軍で使われていた戦艦だ。
退役する時に、スクラップ同然の値段で父が買い取った。
旧型艦なので、無駄にデカくてゴツイ。
最新型の戦艦は、優美なフォルムで美しく、さらに速い。
最新型戦艦に比べれば、ジャガーノートはダサイ旧型艦だ。
まあ、それでも、辺境星域に出没する宇宙海賊が相手なら、旧型戦艦でもオーバーキルなのだ。
俺は旧型戦艦ジャガーノートに乗り込み船団の指揮をとった。
船員は全員が農家の次男坊や三男坊で、実家でこき使われるのが嫌で船に乗り込んでいる。
船が出ない日は実家の農業を手伝う。
半農反船員というのは、辺境星域ならではだ。
二十日の行程を走破し、我らジャガー男爵領輸送船団は、帝都に到着した。
俺は早速ジャガイモの売り込みを開始した。
しかし……。
「なんだ! ジャガイモ男爵ではないか! 生きていたのか! てっきりフライドポテトにされて平民兵士に食われたかと思ったぞ!」
士官学校の同期のツテを使って売り込みをかけたのだが、俺はバカにされている。
相手は軍令部勤務の同期で侯爵の息子だ。
侯爵の十男坊だか、十二男坊だかなのだが、侯爵の血を引いている。
貴族としては、圧倒的に格上なのだ。
軍の階級も上で、俺は少佐。相手は准将だ。
士官学校を卒業しただけで、階級に差がつく。
これだから貴族社会ってヤツは!
だが、嫌なヤツだが、こいつは派閥争いの一方――名門貴族派に所属している。
親父の目論見通りなら、内乱を見据えて食料を買ってくれるハズだ。
俺は卑屈な愛想笑いを浮かべて、マッシュルームカットの同期生と対話を続ける。
「ははは……。ジャガー男爵だよ! 冗談きついなぁ……」
「おお! そうそう! ジャガイモ男爵だな?」
「ええと……。はい、ジャガイモ男爵です……」
「はははっ! 面白いぞ! いや、もちろんわかっているさ。ジャガー男爵のご令息であるデブ君であったな」
「いや……その……デイビス……」
「ははははっ! 君は愉快な男だ!」
こいつは在学中から何かにつけ俺をいじめてきた。
だが、まあ、手を出してこないで、ネチネチ嫌味をいったり、田舎者ネタでからかってくるだけだから、俺も逆らわないようにしていた。
何せ侯爵の血を引いているからな。
侯爵家を敵に回すのは不味い。
まあ、俺をからかって、コイツがご機嫌になるなら、それで良い。
問題はジャガイモだ。
「それで、どうだろう? 大型輸送船五隻分のジャガイモを買ってもらえないだろうか?」
「ジャガー男爵令息。君は何を言っているんだ?」
「いや、商売の話だが……」
「イカン! イカンなあ! 君は状況が分かっていない。この帝国では明日にも内乱が起るかもしれないのだぞ!」
「ああ。だから食料を――」
「だからこそ! 旗色を鮮明にし、自ら忠誠を示すべきだとは思わないかね? うん?」
あっ……!
つまり、俺たちのジャガイモを侯爵に献上しろと言っているのだ!
バカバカしい!
何万光年もワープを繰り返して運んできたのに、なんでタダでくれてやらなきゃならないんだ!
きっと俺からタダで巻き上げて、自分の手柄にするつもりだな!
「いや、気が利かなくてゴメン! でも、これは父のジャガイモだから、俺に決定権はないんだ」
「うん、うん、そうか。では、早くお父上に確認をすることだな。貴殿らが忠誠を示せば、私が父上に伝えよう」
「わかった。ありがとう」
俺は内心怒りながらも、愛想笑いを浮かべて商談を終えた。