「デイビスよ。帝都でジャガイモを売ってきてくれ」
「えっ!? あの……父上……。今、帝都から帰ってきたばかりですが……」
俺はデイビス・ジャガー。
ジャガー男爵家の嫡男だ。
帝都にある帝国士官学校を無事に卒業し、故郷に帰ってきた。
帝都で五年生活していたが、故郷のジャガリコ星は変わらない。
ここは大銀河系の隅っこにあるノンビリとした農業惑星で、住民のほとんどは農業従事者だ。
帝都から戻ってきた俺を暖かく迎えてくれた。
だが、親父はすっかり老け込んだ。
俺は親父が年老いて出来た子供なのだ。
親父を労って、故郷でノンビリ過ごそうと思ったら、『帝都でジャガイモを売れ!』だと!?
どういうことだろう?
俺は親父に理由を聞く。
親父は執務机に両手を置き、真面目な口調だ。
「今年のジャガイモは、近年まれに見る豊作なのだ。正直、余っていて我らジャガー男爵領では消費しきれん」
「ふーん。だったら商人に売るか、近隣の貴族領に売れば良いじゃないか」
「ダメだ! 我らジャガー男爵領が豊作だったことを、出入り商人や近隣貴族たちは知っている。買い叩かれるのがオチだ!」
「それで帝都で売ってこいと……」
うーむ。
親父も結構考えているんだな。
老け込んで見えても、頭脳はまだまだ明晰か!
だが、俺は帝都には戻りたくない。
今、帝都では後継者争いが起っており、宮廷内は派閥争いの舞台になっているのだ。
派閥争いの影響は、俺が在籍していた士官学校にも及んでいた。
「父上。今、帝都に行くと面倒なことになると思いますよ」
「知っている。皇帝陛下のご体調が思わしくないのだろう? 派閥争いが起っているのだろう? だからこそ帝都でジャガイモを売れ!」
「えっ!?」
「派閥争いがエスカレートすれば、内乱になる。いや! もちろん、内乱になると決まったわけではないが……」
「まあ、みんな内乱に備えているだろうね」
内乱なんてならない方が良いが、事態はどう転ぶかわからない。
この帝国では、皇帝の後継者争いから内乱になったことは、一度や二度ではないのだ。
「デイビス。内乱になれば何が必要だ?」
「そりゃ、宇宙戦艦、エネルギーや弾薬、兵士に……食料か!」
「そうだ! デイビスよ! 帝国でジャガイモを高く売ってこい!」
「わかった。もう一度帝都に行ってくるよ」
こうして俺はジャガー男爵領のオンボロ輸送船と、これまたオンボロの中古宇宙戦艦に乗って帝都へ向かって出発した。
オンボロ輸送船には、冷凍コンテナ処理をしたジャガイモが満載されている。
さて、買い手がつくかな……。