私が創作活動を始めたのは遡ると8年近く前になると思う。住み慣れた故郷を出て、たったひとりで狭い部屋で夜を過ごしていた時期だ。
いつもひとりだった。寂しくて辛くて苦しくて、故郷を思い出しては泣いていた。
メンタル的にも弱っていて人に対しても優しくなれない。そんな自分をどんどん嫌いになっていった。
私は私を救いたかった。この暗闇から救い出してあげたかった。
当時まだガラケーだった携帯電話の宛先も設定していないメール画面に、私は自分が感じているすべてを打ち込んだ。あれは私の心の叫びだった。いつの間にかそれはひとつの小説として形作られ、ひとつ話を書くとどんどん次の話の構想が降りてきた。
物語の中では私は自由だった。楽しくて、物語を作ることに夢中になっていた。
今、私がカクヨムに掲載している小説はその時の私の心の叫びの結晶だ。
モラトリアムも経験した。仕事もなかった。遊ぶ友達もいなかった。思い浮かぶ故郷に置いてきた人達。
世の中のどうにもならない理不尽なこと、腹立った人や物事、生きていて欲しかった人達のこと、忘れられない大切な人のこと。
まだSNSもやっていなかった。
この世界にひとりきりなんじゃないかと思っていた。
でもあの時の孤独がなければ私はここでこうして物語を綴ることはなかった。
ミステリー作家は紙の上では人殺しだとよく言われる。
だとするとミステリーを専門に書く私も紙の上では人殺しということになるだろう。
嫌いな人間は嫌いだ。
でも公にはそんなこと言えない。
声を大にして言えないことを、物語の世界の力を借りて主張している。
嫌いな人間の要素を悪役にたっぷり詰めこんで、物語の世界の中でこてんぱんにこらしめてやる。あいつもあいつも、こてんぱん。
魚をさばくみたいにね、裁いている。
今が幸せだと実感するのは、新シリーズの構想がまったく降りてこないから。
ああ、私幸せなんだなって。
いつかは物語を書ける時間もなくなって、書く必要もなくなるのかもしれない。
幸せな時ほど創作ができない私としては、いつか小説を書かなくなる日が来るのならそちらの方がいいんだろうな。