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つらく理不尽な過去とどう向き合うかという話『名探偵ラト・クリスタルの追放』

1月20日・21日の朗読配信に参加された皆様、お疲れさまでした。
朗読を聞きながら、私もリアルタイムで誤字脱字を直したりしていました(絶望) 朝月おねえさんの声とラトの話し方ってすごく親和性がありますね。朗読の続きは今週日曜日、1月28日に配信になります。みなさまぜひ聞きに行ってください。

で、朗読配信を聞きながらあらためて思ったのですが、今回朗読してもらっている章『クリフ・アキシナイトに正義はあるか』はすごく重い内容になっています。まだ探偵裁判がはじまったあたりなのですが、すでにけっこうな阿鼻叫喚になってました。逃げ道を完全に塞がれた状態でどう戦うかは今後の配信をお楽しみにね! というところなんですが、クリフ君を大変な目に遭わせてしまったな……とちょっと反省しております。



ここから先はネタバレです……。



今回の章の話はクリフ君と、クリフ君の過去にまつわる話でした。
クリフ君はラトの相棒にするために創造したキャラクターですが、それと同時に影のストーリー全体を引っ張っていく主人公格としても扱ってきました。

彼は表面的には善性の人であり、真面目で常識的にふるまいます。
しかし彼の祖父は悪鬼とまで呼ばれた人物で、自分の血筋に対しても愛情は全くなく、暴力によって家族を支配してきました。
殴る蹴るは当たり前、あげくの果てには毒を盛って苦しんでるところを見て喜ぶ始末。
どうしようもない人物です。
ハイファンタジー毒親です。

クリフ君はその影響をずっと引きずっていて、そこから脱却することを目指しているのです。

彼はいろいろな出会いや導きを経て、それが正しい生き方ではないということを学びました。
でも実際のところは、祖父に教え込まれた暴力と、閉じられた世界の常識でしか他者とコミュニケーションを取ることしかできないのです。表面的には探偵助手のワトソン役ですが、内面はモリアーティです。

ラトはそんなクリフくんに心の中の正しさは求めませんでした。
心の中は誰しも自由であり、そこにどれほど残虐な性質が潜んでいたとしても裁かれることはありません。
ラトはそれよりも「行動」を求めました。

他者をどれだけ思いやれるか、優しく振る舞えるか。
勇敢であれるか。

生まれではなく、その人の取る「行動」だけが、その人がどのような人間なのかを決める。証拠のみを根拠に真実を導き出す探偵らしい考え方だったと思います。

これはある意味では限りなく正しく、ある意味では果てしなく間違っていました。この間違いに蓋をしながら、話を先に進めることもできたのですが、どうしてもそれはしたくなくて、書きあがったのがこの長大な章でした。

クリフ君はこれまでもつらく苦しく理不尽な過去を振り切るために「行動」を続けていました。
彼はガンバテーザ要塞で英雄的に振舞おうとし、でもその試みは失敗しています。
その後、キルフェと再会しますが、キルフェはクリフを選ぶことなく去っていく。

いったい何故なのか。

クリフ君には全くわかっていませんでしたが、セヴェルギン隊長やキルフェはクリフ君を助けるためにそうしたのです。
彼らはクリフ君が自分のそばにいると、遠からずクリフ君が死んでしまうことがわかっていて、みずから遠ざけた。
ふたりは自分自身が模範になることで、そうした自己犠牲的な行い、英雄的な行動がどれだけ他者を傷つけるかを教えたということになります。


わたしは小説を書く時、いつも結論を出さずに書き始めます。
考えるために書いているというのが実態に近いでしょうか。
いつもいつも考えることは、苦しい過去をどうしたらいいかということ、どう向き合っていったらいいかということです。
『ラト・クリスタル』だけでももう四十万字分くらい考えているのですが、結論は出ません。

(こんなタイトルなのにごめんなさい。)

どうしたらいいか私にもわかりません。
ただひとつ言えることは、暴力はあまり解決にならないということ。

(チートは一時的に状況を改善するけれど、長続きはしないか、精神的には救われない。過去改変ですら、暴力を受けた過去を消してくれるわけではないので。)

そして過去を清算して現状を変えたいと思ったとしても「自分を犠牲にする」とか「自分だけががまんすればいい」という考え方をベースにすると、やっぱりぜんぜん解決にはならないどころか被害が拡大する恐れがある(そういうことを考えているとそのうち「別の誰かを犠牲にする」「誰か別の奴にがまんさせる」という選択肢が出現する)ということは言えそうだな、と思っています。

また、行動を取りたくても、あまりにも心が邪魔をして、にっちもさっちもいかないということもある。
こういうことは物語の中だけではなく、現実にも十分起こり得ることだと思います。
小説を書き続けたとしても、そこに何か答えが生まれるわけではないのですが、クリフ君がこれからどうしたらいいのかな、ということは、この先も考えながら書いていこうと思っています。
(パソコンが壊れたり貯金が無くなったりまた病気になったりしなければ。無料でできる範囲で。)
お付き合いくださる方がいらっしゃれば、それ以上に幸福なことはありません。
読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。

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