近況ノートでひっそり短編を連載しています。
全三話。今回が最終話、後編です。
前編はこちら
https://kakuyomu.jp/users/mami_y/news/16817139557450581298私の短編で登場する「マミさんケンタくん親子」が主人公です。
自転車操業不定期連載。
ジャンルは現代ドラマ。
テーマは夏休みの宿題。
近況ノート連載なので、コンテストや評価とは無縁の世界です。
だからいつでもブラバOK(`・ω・´)b
お時間のある時に、ふらっと覗いていただけましたら嬉しいです。
🌻🍉
帰宅すると同時に、半ギレ涙声で叫んでいるケンタの声が耳に飛び込んできた。
「だってえ、終わらないよう。もう分かんないよう。うええん」
ケンタの叫びを受け止めていたパートナーは、縋るような目をして私を見た。
「お帰り。ケンタがさ、ドリル終わらないんだって。でもドリルは手伝っちゃったら本人のためにならないから、『集中してやればできるだろ』って言ったら、こうなって」
ケンタが握りしめているドリルを確認する。字はめちゃくちゃだが、かなりの量をこなしてはいる。私は笑顔を作り、本を手渡した。
「遅くなってごめんね。先に感想文の本を読もうか。でも、パパの言う通り、あとでちゃんと集中してドリルやろうね」
本を渡したとたんに、ケンタの表情がぱっと明るくなった。
「わあっ、ありがとうっ」
さっきまでの涙はなんだったのだ、という位の変わり身の早さだ。ソファの端で丸くなりながら、夢中で本を読み始める。やがて何かがツボにはまったのか、ぷくぷくと笑い出した。
その姿を、じっと見つめる。
本というものの力を、改めて実感する。
夏休み最終日の切羽詰まった状況でも、大量のドリルをこなした後でも、本は子供を瞬時に楽しい世界へと連れて行ってくれる。
そして思い出す。そういえば、子供の頃に好きだった本って、今でもはっきり覚えている。きっとこれからも覚えているだろう。
本の世界は、何十年も心に残る。
単純に凄いと思うと同時に、少しおそろしくもなった。
私は小説を書くのが趣味だ。ほぼ誰にも読まれていないこともあり、書いてみたい物語を、深く考えずにたらたらと投稿している。
だが、物語を紡ぐということは、実はとんでもない責任を伴うことなのではないか。
「おもしろかったー」
結構なボリュームがある本を、思ったよりも早く読み終えた。その表情は「宿題をやっている」という悲壮感が全くなく、ただひたすらに楽しい世界の余韻をかみしめているようだった。
「よかったねえ。どんなお話しだったの」
「うん。そうか。さっき、めっちゃウケていたところあったけど」
「何が一番面白かったかな」
「どうしてケンタはそう思ったんだろう」
私に作文指導のスキルなんてない。ただ、小説投稿サイトで、作品にコメントをしたりレビューを書いたりする時のことをなんとなく思い出しながら、感想を引き出してみる。
「じゃあ、今言ったことを書いてみようか。こんなに面白いと思ったんだよーって、先生に教えてあげよう」
本当は、こんなぬるい書き方ではいけないのかもしれないが、今はそんなことを言っている場合ではない。とにかく彼を乗せて、勢いづかせて、なんとか中ボスをクリアしないといけないのだ。
読書感想文を書き終えた時には、既に日が大きく傾いていた。クオリティはともかくなんとかやりきったケンタは、疲労をにじませながらも晴れやかな表情をしている。
私は夕飯の支度を始めるべく、パートナーに声を掛けた。
「これから私、夕飯作るから、その間ケンタのドリルを見てね」
パートナーの頭上から「げんなり」というオーラがどろりと沸き上がったのが見えたが、にっこり笑って台所に向かった。
その後、どうにか宿題を終わらせることができたケンタは、明日の準備もそこそこに深い眠りについた。
「どうしてそうなるかな」という体勢で眠っているケンタの顔を見て、思う。
できるかどうかはわからないけれども。
私も、子供が夢中になって読むような物語を書きたい。
つばさ文庫の公募、チャレンジしてみようかな。
🌻🍉
……という物語の流れの後、「明日からつばさ文庫用の新作始めます!」とか言うといいのかもしれませんが、違います。
新作は、秋の終わりくらいに連載開始します。
児童文学ではありません。
通常運転の恋愛ファンタジーです。
少しダークな変わった世界観ながらも、大人のお姉さま、お兄さまの、青春の甘酸っぱい古傷を抉るような、レトロな雰囲気ただようお話になる予定です。