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出版社回りの昔話・その2

 ひとつ前に書いたように、出版社回りは失敗に終わったのですが、中には、私のせいではないケースもあります。まだ関係者がご存命なので、詳しいことは言えませんが、ふたつばかり。
 ひとつ目は、編集者の方が、「映画で言えば、制作費10 億ぐらいかかるような物が読みたい」、とおっしゃいました。時代を考えると、いまなら制作費30億から50億、ということになるでしょうか。つまり、スケールの大きい話、ということですが、残念ながら、私の小説は、小さな舞台でちまちまやるようなものがほとんどで、ご期待には応えられませんでした。
 そうかと思うと、某社の編集者の方は、すごく熱心に話を聴いて下さいましたが、見本に贈った「水路の夢」への感想を言うこともなく、「やっぱりうちには合わないから駄目」、と言われてそれっきりでした。
 この話には、オチがあります。
 見本を贈ったとき、返ってこなかったのは当たり前ですが、それから 6、7年経って、私の手許に「水路の夢」が届きました。こんな仕事をしています、という名刺代わりみたいなものなので、まとまった数が手許に欲しかったのですが、もう絶版になっていたので、古本集めの仲間に頼んだところ、ブックオフ(古いね、しかし)などから続々、探して贈ってくれて、大変ありがたかった、そこまではいいんですが、書庫にしまおうとして、ぱらぱらめくってみると、一冊の「水路の夢」に、手紙のようなものがはさんであったのです。
 開いてみると、やけによく見た字で、「サンプルをお送りします」みたいな文章が書いてありました。よく見るわけです。私が、先ほどの某社編集者に贈った見本の本でした。話がややっこしいですか? つまり、その担当者は、私の小説を読むこともなく、それどころか開いてもみずに、古本屋に叩き売ったわけです。
 もちろん、抗議はしませんでした。そういう方と、仕事はしたくないですから。ただ、面白かったな。まさか編集者も、自分が叩き売った本が、著者の元へ届くとは、夢にも思ってなかったでしょうね(笑)。
 まあ、そんなわけで、人生、どんなことがあるか分からない、という話ですが、もしあのとき、某社から出ていればどうなっていたことか。その某社ラノベレーベルも、いまはありません。むかしむかしのお話でした。

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