アントワーヌ伯爵婦人

『ご機嫌麗しゅうございますアントワーヌ伯爵夫人、本日はまた一段とお美しいですね。
おぉ!なんて幸運な朝を私は迎えることができたのでしょうか…。

一体何が私にこのような幸運をもたらしてくださっているのでしょう!
このお屋敷が?
いやこの屋敷の隅々まで行き届いた手入れ、素晴らしい調度品の数々。
しかし、それ以上に貴女様御自身がもたらす空気、そう!
この雰囲気、この空間一体がまるで緩やかな時間すらも止めてしまいそうな、そんな感覚に包まれて……。

かたや朝刊には、あのハプスブルグ家で行われた強盗殺人事件の見出しが各紙一面に!
夫人はご覧になられましたか?
なにやら殺されたのは、フランツ一世婦人マリア・テレジア王女の身の周りを管理していた役人である、アンドリュー公爵。
そして犯人はテレジア王女が大切にしていた20カラットのピンクスターダイヤを手に入れ、姿を消した…

しかも、この三ヶ月で次々に起こる強盗殺人事件はどれもが未だに未解決
犯人は指紋や髪の毛の一本すら残さないという、まさに完全犯罪!

しかし! しかしですよ、婦人。私ハインリッヒは、犯人が行う一連の犯行に一本の糸ような繋がりを発見したのです!
どうです? この私が見つけた確かなる繋がりに、興味がでてまいりませんか?

ふふ…どうやら興味を持っていただけたようですね。
ええ、長いお話になるでしょうから、お言葉に甘えて貴賓室へと場所をかえさせていただきましょう。



さて、それでは続きをお話することと致しましょうか。

まず、一つ目の事件は三ヶ月前に起きた、ロスチャイルド家の鉄道王強盗殺人。
ジェームス・ロスチャイルドの側近が殺され、同時に数億フランの金銀財宝が盗まれました。

そして、ふたつ目の事件は二ヶ月前。ルネサンスの芸術家を支えたメディチ家の最後の当主ジャン・ガストーネの愛人が殺された事件。
ガストーネがその愛人へ送ったとされる、ルネサンス絵画の巨匠・ボッティチェリの名作[プリマヴェーラ]と同時期に描いた『幻の作品』が盗まれた。
『幻の作品』とは一体どれほど素晴らしいものだったことでしょうね。

…いや、話がそれてしまいました。もうしわけない。

この一連の事件、ジェームス・ロスチャイルド、ジャン・ガストーネ、そして今回のマリア・テレジア王女……
そこに関連する一本の糸のような繋がり……。

ここだけの話ですが、いずれの事件もかなりの歳月をかけ、水面化で進められた計画的な犯行のような気がしてならないのですよ。
しかも、組織的に…

どうかなさいましたか、婦人?
なぁに大したことではありませんよ。
ただ一つお聞きしたいことがありましてね。
貴女様は確かマリア・テレジア王女の第十五子であるマリーアントワネット様の誕生祭のパーティにご出席されていましたよね?
そこでお伺いしたいのですが……。

おや、もうそんな時間ですか。これは失礼いたしました。
美しいご婦人との会話は時を忘れさせてしまいますね。時間の感覚を忘れて、ついつい話し込んでしまいました。
お互い暇ではありませんからね。
まあ、全て解決してからでも遅くはないでしょう。
晴れてすべてをお話することができる日には、改めてお伺いしたいと思います。美しい貴女との再びお会いできる日が楽しみだ。それでは、失礼致します。』




続き
『何故アントワーヌ伯爵夫人に会いにいったかと?
いきなり土足で入って来て随分と慌てているご様子ですが、ご自分の身分も名前も名乗らずに 実に失礼な方ですね

まぁ お見受けしたところ、あなたは医学に携わる関係のお仕事をされいらっしゃる
また、出身大学はボローニャより少し田舎なまりがありますので、パドヴァ大学ご出身ではありませんか?


なるほど、フランソワとおしゃっるのですね
では、私がなぜそこまでの素性が分かるのか?

簡単なことですよ

さっきから私の鼻に刺すような異臭を放っているあなたの手です 左手からはアンモニア、右手からはアルコールの薬品臭を感じます、つまり、法医学が専門で間違いないでしょ? Drフランソワ

なるほど、当たっていましたか。
私の観察眼もまだまだ衰えていませんでしたね。

おっと、話を戻しましょう
そのDrフランソワ様は今回のアントワーヌ伯爵夫人の件で私ハインリッヒと、事件解決の糸口を模索するため、こちらに出向いたと?こう仰りたいのでしょうか?

分かりました 医学の分野に詳しい方をちょうど探していたところでしたので、お互いに足りない部分を補いあいましょう

ところで…いつまで土足のまま私の部屋に?
早く脱いでください。』

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