今回の公開内容
誠の友情は真実の愛より難しい「たとえばそれは」
鬼、とは。
異国より訪れた化生とも、目に見えぬおぞましきものともいう。
ただはっきりしているのは、それが明確に知覚されたのが平安時代であるということだけ。
「それは因子《ミュトス》なんだよね」
星空を投影した天井の下、ソファに寝転がりながらクローバーは呟く。
稀代の錬金術師、その他諸々の名前あれど――彼は天才という一言に辿り着く。
生欠伸を噛み締めながら、博士とも呼ばれる男は続けた。
「意識が積み上げた神話や伝説、英雄や怪奇。そういったものが混入することで精神と肉体を変容――とか長くなるけど、聞きたい?」
からかうように笑い、一冊の本を天井に向かって投げる。
星空に吸い込まれ、消えてしまった本は輝く星へと変わった。
「五鬼とか属性とかいうけど、要は因子混入による変容がたまたま陰陽術に沿っただけなんだよね」
相槌が返ってこないことも気にせず、もう一冊の本へと手を伸ばす。
山積みにされた本に囲まれ、自堕落な姿勢で読み続ける。
「まあそれもある意味因子のせいなんだけど」
熟読するため、一ページを丹念に見つめる。
ゆっくりした動作で指を動かし、次のページへと触れた。
「うん? 簡単に?」
まるで問いかけでも聞こえているかのような素振りで、男は独り言をぼやく。
「人間の想像力は世界に影響するってことさ」
喉を鳴らし、笑い声を漏らす。
そこには悪意は一切なく、好奇心と信頼感にあふれていた。
「君達はもっと自分の意識というものを信じるべきなんだ」
「なんだってできる。そうだとも」
「実際、君達は指一本で世界を破滅させる術を手に入れた。これは快挙だ」
矢継ぎ早に喋る男は、ほんの少し憂いを含んだ笑みを浮かべる。
「だから君達は、いつか指一本で世界を救えるさ」
それは予言とも、期待のようにも捉えられた。
天井を仰ぐ。満天の星は尽きぬ輝きを光の速さで彼方へ届ける。
「僕はその日を待っている」
吐息まじりに呟かれた言葉は、重かった。
「ん? ああ、そうだね」
「そろそろ時間かな」
名残惜しそうに微笑んだ男は、一冊の本を投げた。
それは目に見えぬ場所へと落ちていく。
「もしかしたら愛ではなく、友情が世界を救うのかもね」
本に記された題名は――。