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SS55

今回の公開内容

バシリス・クライム「女の独白」


 夢を見る。
 幸せな、温かい、欲しかったもの。
 
 母達が笑っている。父は優しく頭を撫で、花畑に連れていってくれるのだ。
 妹と競争し、飽きたら花輪作りを始める。
 少し不恰好な花輪を、大好きな人が受け取ってくれる。
 
 そんなありえない夢を見る。
 私は永遠のように長い五百年、同じものを眺めている。
 王子様がいつかやってくることを、諦めるまで続く夢物語だ。
 
 童話のお姫様のようになりたかった。
 愛される存在として生まれたかった。
 自由に恋をする乙女みたいに浮かれたかった。
 
 私は黒鳥。忌み嫌われる女。
 白鳥のように優雅にもなれず、愛されることもない。
 運命の二人を引き裂くための罠。愛を深める香辛料。
 
 どんなに純粋な気持ちを抱えても、私の恋は叶わない。
 ああ、童話も汚れればいい。罪に溺れた姫を描こう。
 
 人魚姫はなんで傲慢なのかしら。
 声も出ないのに愛されると思ったの?
 
 シンデレラは嫉妬深いのね。
 黙って家の掃除をしていれば、平凡な愛を手に入れたかもしれないのに。
 
 ラプンツェルは怠惰ね。
 塔から出ることもできない臆病さが、王子の目を潰すの。
 
 白雪姫は強欲だわ。
 継母の愛さえも欲しいなんて、はなから無理な話よ。
 
 眠りの森の美女は暴食なのね。
 一体どれだけの男を茨で食らったのかしら。それでも足りないようだけれど。
 
 親指姫は憤怒を知っているのかしら。
 泣いてばっかりで、流されて生きているわね。その涙はまるで飾りね。
 
 美女と野獣の色欲ですって。
 まあ一番罪深いわね。でも他人のことは言えないわ。
 
 自分が嫌になる。
 こうやって綺麗なものを汚して、満足する浅はかな女。
 だから魔女なんて呼ばれて嫌われてしまうのね。
 
 誰でもいい、なんて言わないけれど。
 愛してほしい。
 慰めてほしい。
 癒やしてほしい
 
 私を――救ってほしい。

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