今週の公開内容
ミカミカミ「初代のとある思惑」
それは私にとって当たり前で、天地をひっくり返すような事実でした。
「世界は丸い」
ええ、知っています。教えてもらいましたから。
星は丸く、そう作られたと。とある「目覚まし時計」が、世間話でもするように語ったのです。
卵のように、円盤のように。弧を描いて繋げると、あらゆる意味を内包するのだそうです。
他にも色々訊ねました。
魂のこと、精霊が見える違いについて、星に遍く元素の全て。
しかしその知識は私が持つには早く、あまりにも時代が遅れていたのです。
私は森に住むただの女。苗字も持たない、庶民の娘。
与えられたもの全てを活かすこともできず、静かな人生を終えるのだろうと思っていました。
彼に出会うまでは――。
「顧問精霊術師にならないか?」
そんな役職名は聞いたことありません。詳しく尋ねれば、やはり初代だと言います。
王族の、王位継承権を持つ王子がどうして……何度も訪ねた彼を、私は追い返しました。
けれど諦めてもらえず、私はその役職を引き受けることになったのです。
彼は不思議な人でした。
とにかく平凡なのです。それがことさら奇妙に映り、どうにもこうにも惹かれてしまうのです。
私は「目覚まし時計」に相談しました。この道は正しいのかと。
「知らないよ。その答えは君が見つけることだろう?」
いつもの調子であっさりと返事が来ました。私としても「確かに」という感想しかありません。
しかし続けてこうも言ったのです。
「まあ人が正しく進むかぎり、大抵のことは上手くいくものさ」
それは数多くの人を眺めてきた存在にとって、至極当たり前なのでしょう。
星に眠る竜を守り、その生命線――竜脈がこの世を満たし続けるためにも。
その存在はこの世を生きた体を借りて、私達の動向を見張るのでしょう。
「ユリア。君の運命はどう廻っていくのだろうね」
いくら精霊が見えるからといって、そこまでは私にもわかりません。
けれど少しでも多くの情報を後世に残し、誰かの土台となるならば幸いだと思います。
別に普通に生きるのならば必要のないものばかりです。しかし必要とする人は少なからずいるでしょう。
知識は善悪を問いません。使い方に付与し、判断するのです。
私が得たものは本に残しておきましょう。一文字でも多く、伝えられたならば。
そうして誰かが見つけた時、すぐに解明できないように単語の細かい使い方に気をつけましょう。
ほら、だって――解き明かすのって楽しいでしょう?