今週(先週)の公開内容
スチーム×マギカ「自由とは他者を害するものではない」
踊りと音楽が広がり、暗闇の中でも宝石のように輝く場所。
それを遠くから眺め、いつか立つことを夢見ていた。
巨大な刃が垂直に落ち、大切な人の首を斬り飛ばした時――憧れは泡沫へと変わった。
民衆が自由を勝ち取った時代は、真っ暗な闇の始まりだった。
その勝利には常に死の影がつきまとい、他の国の産業革命から取り残された。
しかし自らが掴み取ったと歓喜する民衆達を責めることはできず、あの夜のように遠くから眺めるだけだった。
隠れ家から空を見上げれば、雄大な鳥が飛んでいく。
青い空を裂くように真っ直ぐと、静かに遠ざかっていく姿が羨ましかった。
走って追いかけることもできず、胸の奥から迫り上がってくる感情を押し込める。
なにが間違っていたのか、もうわからなかった。
けれど友達が命がけで生かしてくれたから、自殺も選べない。
双子の弟が必死に守ってくれるから、その想いを裏切ることもできない。
平凡で、意気地なしで、普通な自分が嫌いだった。
ある時、不思議な感覚に襲われた。とある女の子に出会って、変な事件に巻き込まれた。
なにを考えたのか、彼女に全てを話してしまった。もうなにか正しいのかわからないと、叫ぶように吐露した。
「大衆の正義と心の正義は違うでしょう?」
氷山に金槌を振り下ろすような、些細な衝撃。
しかし確かに表面が凹み、削れた手応えがあった。
「誰かの正しさなんて、自分の基準に組み込みたくありませんわ」
削れた場所から、滴り落ちるように。
涙が頬を伝っていく。それは痺れるくらいに熱かった。
「ただ一つ言えるのは」
それは。
「命が消えることを喜んではいけません」
正しいとか、間違いではなく。
ずっと耳にこびりついていた歓声を否定し、自由の勝利に異を唱える言葉。
まるで魔法の呪文のように、求めてやまないものだった。
歴史の観点で、大切な人は悪人として罵られだろう。
その死を覆すことはできず、時代のために必要だったと語られるかもしれない。
けれど確かに悲しかった。つらかった。苦しかった。
「だからわたくしは正義なんて嫌いですわ」
頷きたかったのに、嗚咽や涙が重くて顔を上げられなかった。
勝者であることは構わない。自由を掴み取ったと喜ぶのはいい。
しかし「家族」が死んだことに歓喜したのだけは、どうしても許せなかったから――。
「アタシも……正義なんて大嫌いだわん」
ようやく言えた。
他愛ない、とても小さな勇気。
この答えを見つけるのにどれだけの時間が経ったのだろうか。
アタシ――ハトリが本当の意味で自由になった時だった。