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SS49

今週(先週)の公開内容

スチーム×マギカ「自由とは他者を害するものではない」



 踊りと音楽が広がり、暗闇の中でも宝石のように輝く場所。
 それを遠くから眺め、いつか立つことを夢見ていた。
 巨大な刃が垂直に落ち、大切な人の首を斬り飛ばした時――憧れは泡沫へと変わった。
 
 民衆が自由を勝ち取った時代は、真っ暗な闇の始まりだった。
 その勝利には常に死の影がつきまとい、他の国の産業革命から取り残された。
 しかし自らが掴み取ったと歓喜する民衆達を責めることはできず、あの夜のように遠くから眺めるだけだった。
 
 隠れ家から空を見上げれば、雄大な鳥が飛んでいく。
 青い空を裂くように真っ直ぐと、静かに遠ざかっていく姿が羨ましかった。
 走って追いかけることもできず、胸の奥から迫り上がってくる感情を押し込める。
 
 なにが間違っていたのか、もうわからなかった。
 けれど友達が命がけで生かしてくれたから、自殺も選べない。
 双子の弟が必死に守ってくれるから、その想いを裏切ることもできない。
 
 平凡で、意気地なしで、普通な自分が嫌いだった。
 ある時、不思議な感覚に襲われた。とある女の子に出会って、変な事件に巻き込まれた。
 なにを考えたのか、彼女に全てを話してしまった。もうなにか正しいのかわからないと、叫ぶように吐露した。
 
「大衆の正義と心の正義は違うでしょう?」
 
 氷山に金槌を振り下ろすような、些細な衝撃。
 しかし確かに表面が凹み、削れた手応えがあった。
 
「誰かの正しさなんて、自分の基準に組み込みたくありませんわ」
 
 削れた場所から、滴り落ちるように。
 涙が頬を伝っていく。それは痺れるくらいに熱かった。
 
「ただ一つ言えるのは」
 
 それは。
 
「命が消えることを喜んではいけません」
 
 正しいとか、間違いではなく。
 ずっと耳にこびりついていた歓声を否定し、自由の勝利に異を唱える言葉。
 まるで魔法の呪文のように、求めてやまないものだった。
 
 歴史の観点で、大切な人は悪人として罵られだろう。
 その死を覆すことはできず、時代のために必要だったと語られるかもしれない。
 けれど確かに悲しかった。つらかった。苦しかった。
 
「だからわたくしは正義なんて嫌いですわ」
 
 頷きたかったのに、嗚咽や涙が重くて顔を上げられなかった。
 勝者であることは構わない。自由を掴み取ったと喜ぶのはいい。
 しかし「家族」が死んだことに歓喜したのだけは、どうしても許せなかったから――。
 
「アタシも……正義なんて大嫌いだわん」
 
 ようやく言えた。
 他愛ない、とても小さな勇気。
 この答えを見つけるのにどれだけの時間が経ったのだろうか。
 
 アタシ――ハトリが本当の意味で自由になった時だった。

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