今週(先週)の公開内容
バシリス・クライム「人生はハードモード」
「そういえば前に話した従姉妹の話っすけど」
なんか聞いたような、覚えが薄いような。
嫌な予感がひしひしと迫る気がしたが、俺――雑賀サイタは続きを待つ。
「一ヶ月休職したっす」
さやえんどうの筋取りをしてる大和ヤマトは、表情が読み取りづらい。
ちらし寿司の準備中に聞く内容か、それ。
まあ、とにかく大変だったな、という感想しか浮かばん。
「毎日泣いて、職場で過呼吸を起こし、胸の痛みを感じての心療内科受診だったらしいっす」
……それはやばいな。うん。
毎日泣くって時点でアウトだろ。どんだけつらかったんだよ。
しかも体の方に不調が出て、お医者さんの世話になるって相当だな。
けれど深刻な事態に陥る前でよかったな。取り返しのつかないことになるよりはマシだ。
「そしたら驚くほどに明るくなって……昔の朗らかな性格が戻ってきたっす」
イクラと錦糸卵はできたし、きゅうりも完璧。カニカマも入れて少し豪華にするか。
なにせ大喰らいが二人いるしな。少食が一人存在しても総合的に見てプラスの方がデカい。
それにしても何故、その従姉妹の話が出てきたのか。世間話にしても重くないか。
「従姉妹はさやえんどうの筋取り名人で、さやちゃんなんて呼ばれてたっす」
ここでそう繋げるのか。
まあ本名に一文字もかすってなさそうなあだ名だけど。
筋を取り終えた大和ヤマトが、よくわからんが穏やかな笑みを浮かべている。
「さやちゃんが元気出て俺は嬉しいっす」
「……そっか」
どうやら大和ヤマトなりに従姉妹を心配してたらしい。
まあ心を病んでしまうと、最悪な場合を想像してしまう。
もしもその手段を選んでしまったら、周囲が後悔で苛まれてしまうだろう。
「でもそろそろ正社員になりたいから、離職考えてるらしいっすけど……資格持ってないとかで困ってるっす」
「せめてコネとかあればいいけどな。ヤマトの家はそういうの強そうだけど」
「曾爺ちゃんが色々やらかしてるんで」
ああ、噂の。一体なにをやったのだろうか。
なんにせよコネを辿ると逆にやばいということだけはわかった。
「資格があれば死角がないのにな」
自分で思いついておきながら、めっちゃ寒かった。
真夏の厨房でさえ冷えているようだ。大和ヤマトの真顔がつらい。
「……ふふっ」
リビングで多々良ララが小さく笑ったが、俺はそれに気づかなかった。
余計な恥をかいたが、その日のちらし寿司はめちゃくちゃ美味かった。