• 異世界ファンタジー
  • 現代ファンタジー

SS43

今週(先週)の公開内容

バシリス・クライム「アイスは食いっぱぐれた」



 暑くて暇な時。男子高校生とは奇行に走る。
 なんというかノリで。部屋の中で一人パンツ一丁で漫画を読んでいたら不意に。
 いわゆる――必殺技を放ちたくなる。もしくは捻れたかっこいい立ち方。
 
 黙々と体を起こし、一人暮らしという利点を活かしての小声。
 
「かーめー」
 
 がちゃり、と。扉が開かれた。
 おにぎりを作る時の手の形を腰の横に構えた状態で、俺――雑賀サイタは硬直した。
 イケメン女子高生の多々良ララと視線が合う。少しずつ閉じられていく扉が、彼女の姿を隠していく。
 
 音もなく静かに。部屋に一人残された。
 とりあえずノックしてくれねぇかな。一応、女の子だろう。一人暮らしの男部屋へ軽率に入るな。
 漢字Tシャツを着て、床に放置してた短パンを履く。大股で廊下へと出れば、壁に寄りかかっている多々良ララ。
 
「誰にも言うなよ!?」
「それはいいけど……」
 
 口元を手で隠している多々良ララの背後からひょっこりと鏡テオ。
 なんか嫌な予感がする。棒アイスを咥えている時点で、どうして禁断の扉が開かれたのかも理解した。
 
「ねえねえ、さっきのって有名な」
「解説するな!」
 
 恥ずかしさで憤死させる気か。お袋に隠してたエロ本が見つけられた時よりも、恥辱で死にそうだ。
 しかしキラキラしたオッドアイが、透明な硝子玉のように輝いている。話を逸らしたいのに、逃げられない気配。
 
「僕もやりたい!」
「やめてくれ!」
 
 ここで耐えきれなくなった多々良ララが「ぶっは」と吹き出した。
 このイケメン女子……ずっと笑いを堪えてやがったな。穴を掘ってこいつら全員埋めてやろうか。
 穴があったら入りたいというが、俺は布団の中に直行したくなってきた。
 
「クルリは?」
「ぬなぁっ!?」
 
 鏡テオが振り向いた先には、アイスを食い終えた枢クルリが立っていた。
 はずれ棒を煙草のように咥えており、めっちゃ冷めた目をしている。やめろ、俺を見るな。
 
「……個人的には印を結ぶ方が好み」
「忍者! それも知ってる!」
「ヤマトは?」
 
 おそらく三本目の棒アイスを食べ始めている大和ヤマトが、リビングから顔を覗かせた。
 なんで話がそう広がっていくのか。まじでやめてほしい。
 
「魔眼とかっすかね」
「わかる」
 
 枢クルリの力強い肯定。いやまあわかるけどよ。いいよな、能力が宿った目玉が光る演出。
 このままそういう話で盛り上がるか。そうすればさっきのことも触れないで済むかもしれない。
 希望が見えた。毒を食らわば皿までの覚悟を決めた矢先。
 
「じゃあまずは好きなヒロイン像から」
 
 とある有名ゲームから発展した嫁問題。それについて熱い議論が勃発。
 白熱した先に待っていたのは、イケメン女子の冷ややかな態度。
 こしあん粒あん戦争並みの苛烈さは、鏡テオが土産に持ってきたアイスが溶けるほどだった。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する