今週の公開内容
ミカミカミ「この親父、厄介すぎる」
話は少し遡り、ヤーがヘタ村へと向かう前。
精霊術研究所の廊下を歩いていた少女に、男性が声をかける。
「第五王子も同行するらしいな」
「はい、ササメさん」
ササメ・スダ。精霊術研究所の長であり、その生涯全てを精霊術の探究に捧げている男。
彼は自分の子供ですら才能がなければ里子や孤児院に出し、逆に有能とわかれば捨て子ですら育て上げる変人でもあった。
「でもアタシがしっかり解決してみせます。人形王子なんて必要ありません」
小さな村で起きている異変。たとえどんなに真相が矮小でも、手柄を得る好機だ。
顧問精霊術師を目指す少女にとって邪魔なのは、蔑称で呼ぶ王子だけ。
「……そうか。成果を期待しているぞ」
「はい!」
育て親である男の激励を受け、少女はやる気に満ち溢れた。
そして村から帰ってきた少女が、報告書を書き上げている最中に進む。
「どうだった?」
「魔人に魔物、魔素に瘴気。課題は山積みですが、世紀の発見と言えるでしょう」
「そうではない。王子のことだ。意識の回復が見られたらしいな」
男の言葉に、少女の羽ペンの動きが明らかに止まった。
しばしの沈黙。そして逡巡しまくった少女からか細い声が漏れた。
「ま、まあ……予想よりはいい王子だったと……思う、ます」
「そうか」
わずかに素の口調が出かけた少女に対し、男は頷くだけだった。
次に氷水晶の神殿で起きた事件後にて、同じように会話する親子。
「どうだった?」
「ウラノスの民の遺跡。彼らには精霊と妖精を技術的に扱い、その発展性によって革新的な術を生み出していたようで」
「そうではない。王子のことだ。今回も同行したのだろう?」
またもや少女の動きが鈍る。同じことが少し前にもあったと思い出す余裕もない。
「……あ、アタシにとって彼は有益だと判断できます……わよ」
「そうか」
誤魔化そうとして結局失敗している。だが男はあえてそこに触れなかった。
そして貴族裁判が終わり、少女が第五王子の従者になることが決まった後。
「どうだった?」
「まさか城内に魔人が潜入できるとは。こうなると防衛の点から見直しを」
「そうではない。王子のことだ。従者になったのだろう?」
もしかしてなにか起きるたびに繰り返すのではないだろうか。
そんな危惧もよそに置いて、少女はしどろもどろに答える。
「……必要になっただけです」
「そうか」
どちらにとってなのか。それともお互いに、か。
深く問い質さない男は常に真顔のままだったが、付き合いが長い息子のカロンは知っている。
――あれ絶対ヤーちゃん利用して、第五王子で実験できないか企んでいる顔だ。
人生全てを精霊術に捧げている男、ササメ・スダ。
彼の現在一番興味深い対象は第五王子であり、隙あらばと狙っているのであった。