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SS41

今週(先週)の公開内容

スチーム×マギカ「あったかもしれない前日譚」



 アイリッシュ連合王国の秋は寒い。十月で既に雪の気配を感じ始める。
 ロンダニアも例外ではなく、薄汚れた霧さえも凍りつきそうなほど冷えるのだ。
 防寒具と共に暖炉用の薪が飛ぶように売れ、献立にカレーやシチューが多くなる時期。
 砕けた南瓜が床に散らばり、橙色の血痕のような光景。
 明らかに石頭をぶつけたであろうコージは、まるで橙色の脳漿をぶちまけたかのように昏倒している。
 探偵が推理するまでもない。上から落ちてきた南瓜を受け止めようとして失敗したのだ。
 
「畜生、誰がこんな酷いことを」
 
 口元がにやけているせいで説得力が皆無なアルトが、倒れた仲間のそばで悔しそうに呟く。
 階段上では「あわわわ」と泣くメイドが、くり抜き用のノミを壁から抜こうと試みている。
 悲痛な現場から目を逸らそうとする犬耳執事は、沈痛な表情で黙り続けていた。
 
「あら、ハロウィーンの飾り付けかしら?」
「姫さん、ここはノリと勢いで押す場面だろ」
「コージさんの心配が先ですわよ、野蛮猿」
 
 寝起きの少女が生欠伸を零し、眼前に広がる陰惨な現場を冷めた目で眺める。
 彼女の背後から美麗な双子も現れ、借家に住むギルドメンバーが一通り揃った。
 
「いやん、コージくんが気絶してるわん。どれだけ硬い南瓜だったのかしらん?」
「それを砕いて無傷なのもすごいな。頭にコブもない」
 
 双子の弟であるチドリが現場に足を踏み入れ、コージの状態を確認する。
 怪我一つない健康体。ここまで頑丈だともっと酷い目に遭いそうだと、彼は気絶した青年に同情した。
 
「氷嚢が必要かしらん? それとも塗り薬?」
「ベッドに移動させましょう。濡れタオルでへばりついた南瓜を拭う必要がありそうですわ」
「えー? 俺様の華麗な推理劇は?」
「ぼ、ぼ、僕が犯人です! ごめんなさい、コージさん!!」
「大声の自供でまるっと解決ですわ。諦めなさい」
「へいへい。じゃあ男前を運ぶの手伝うわ」
 
 ささやかな平和と日常。起こる事件も些細なもので、慌てることもない。
 
「ハロウィーンまで、あと何日だったかしら?」
 
 壁掛けカレンダーを見上げ、日数を目線でなぞっていく。
 クイーンズエイジ1881。街が炎に包まれるまで、あと――。

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