今週の公開内容
誠の友情は真実の愛より難しい「本人は普通のつもり」
リー・茨木という少年は笑い上戸である。
歪んだ性格を綺麗な顔で隠し、穏やかな仕草で内面を誤魔化している。
だがそれでも一回笑うだけで化けの皮が大きく剥がれてしまう。
たとえばホラー映画。
いちゃついていたバカップルが連続殺人機に襲われた瞬間など、抱腹絶倒である。
たとえばサスペンスドラマ。
犯人が追い詰められていく様子をにやにやと眺めるので、周囲に人がいないことを確認してから見なくてはいけない。
しかし芸人特集は例外である。
どんなに大人気な芸人がキレのあるネタを披露しても、彼はぴくりとも笑わないのである。
むしろ冷めた目で沈黙を貫き、不可解な生物を鑑賞するような表情を浮かべるのだ。
ただ芸人のネタが滑った瞬間は、くすっと笑みを漏らすのである。
体を張る熱湯やおでん、その他諸々。それらは好みらしく、芸人が暴れ回る映像を見ていることが多い。
そんな彼がポップコーンと炭酸飲料をお供にしたいくらい楽しいのは、紫音に無茶振りする時だ。
女の子に大人気なスイーツを買わせたり、筋肉質な少年との対比が激しいふわふわもこもこぬいぐるみを抱かせたり。
悔しそうに顔を歪めながらも素直に従う紫音を見ると、幸せに満ち溢れるほど愉快な気持ちに浸れるのだ。
焼き肉に併せてご飯を食べるような、充実した心地。まるでこのために生まれたのではないかと錯覚するほど、楽しいのである。
そんな主人に対し、
「叔父の育て方が悪かったんだろうな」
とだけでまとめる紫音も大概である。優しいというよりは、諦めの境地だ。
風評被害を受けた叔父のリー・梁からしてみれば、
「せめて母親の責任と言ってほしいけど、あの人は口うるさい割に放任主義だからね」
近親の静かな争いに辟易していた。
茨木と母親が関係性の改善に歩み寄れば、おそらく死人が出る可能性が高い。
実の親子であるはずなのに一触即発。地雷にも似た危うさを内包し、それを自覚している故に距離を開けている。
歪みまくった性格のリー・茨木だが、父親に関しては純粋に尊敬していた。
一度も会ったことがない事実が功を奏したのか、それとも母親への反抗心なのかは本人も把握していない。
それでもスメラギ・源藏へ向ける感情だけは、彼を大人しくも素直な子供へと戻してくれる。
――ただ性格の矯正には全く役に立たないが。