今週の公開内容
スチーム×マギカ「描けば出るの類似版」
「和国に伝わる怖い話をいたしましょう」
蝋燭の灯りが揺れる室内。窓硝子を叩く小雨の音が遠いような、薄暗い時間帯。
壁まで光が届かず、ぼんやりと顔が浮かび上がる程度。ユーナを中心に、アルトとコージ、美麗双子、ヤシロとナギサが輪になってソファに座っている。
――巡礼のために諸国を旅する男が一人。錫杖を鳴らしながら、雨の中を走っておりました。
激しい雨粒に体を打たれ、衣服は絞り切れないほどの水を吸っています。足取りも重くなる男は、一軒の古びた空き家を見つけました。
駆け込みながら引き戸へ手をかければ、すんなりと室内へ入ることができました。庵や畳には埃が被っておりましたが、一晩過ごすには問題ない様子です。
男は庵に火を投じ、濡れた衣服を脱いで休むことにしました。
どうやら空き家はつい最近まで誰かが住んでいたようで、竈門の横に多少の薪が積まれていたのです。
これ幸いと旅道具の鉄鍋を取り出し、水と乾燥した米を入れて食事の準備を始めます。ことこととお湯が煮立てば、米もふっくらとしてきました。
隙間風や雨漏りもない。運が良かったと喜ぶ男でしたが――どうにも違和感が消えませんでした。
ことこと、ぱらぱら、ことこと、じゃりじゃり、ことこと、ぱらぱら。
煮立ちと雨音に紛れ、妙な物音が聞こえるのです。
それはまるで砂利道を誰かが歩んでいるような、足音に似ていました。
しかし道中は泥がぬかるんだような田舎道ばかりで、砂利など見当たりませんでした。
もしかしたら空き家の裏側は庭があるのだろうか。そう考えた男は、褌一丁のまま確かめようと立ち上がります。
すると激しい雷が外を照らし、鋭い光が強い影を作り出しました。
黒く巨大な影が空き家の外を歩いていました。それはなにかを食べているようで、咀嚼音がじゃりじゃりと響いていたのです。
雷が鳴る中でもその音はやけに耳に残り、炎で体を温めても寒気が消えませんでした。
怖くなった男は雑炊を飲み込むように食べ終えて、庵の炎を眺めながら黙して過ごしました。
いつまで経っても消えないじゃりじゃりという音に怯え、時折外を照らす雷によって浮かび上がる影が空き家に入ってこないようにと願います。
すると信仰が通じたのか。朝には不快な音も、奇妙な黒い影も消えていました。
安心した男が陽の光を浴びながら、うとうとと眠りにつこうとした瞬間。
――じゃりじゃり。
背後からあの音が聞こえたのです。
おしまい。
「……オチは?」
「正体不明の方が怖いでしょう」
妙に落ち着かない終わり方にアルトが不満を漏らす中、外の雨音が強くなる。
すると借家に変な音が響き、それをいち早く察知したヤシロがしかめっ面を浮かべた。
――じゃりじゃり。
「ちなみにこの話……語ると出るようです」
「それを先に言ってくれないか!?」
平然と追加項目を述べたユーナに対し、コージは若干涙目になる。
こうして怪談話を退治する羽目に陥るのだが、長くなるので割愛された。