今週の公開内容
誠の友情は真実の愛より難しい「素直になれない三十路前」
シラス・矢吹は某動画の配信者が行う実況を見ていた。
ホラー、アクション、ミステリー、サスペンス、RPGでも、ゲーム実況を特に好んでいる。
テストの採点を行いながら流し聞き、時折ホラー実況の絶叫に驚くことがある。
最近では3Dモデルを用いた半分二次元の実況者、ユウキ・麟を贔屓にしていた。
声の雰囲気からは女性だと思うのだが、基本的に口が悪い。しかしホラーが苦手で、興奮しすぎると猿のように叫ぶ。
アプリゲームのガチャ実況はまさに阿鼻叫喚。そのぶっ飛びぶりが癖になり、デビュー当時の清楚系が嘘のようである。
「……」
見ている分には面白い。しかし知り合いにそんな話をすると「そういう女が好みなのか?」と勘違いされる。
矢吹は現場の生活に余裕がないのと、結婚願望が薄いだけである。理想的な女性は家庭的な明るい性格だ。
少なくとも奇声を上げる女性は最初から範囲外である。自由性の高いゲームで最初にとにかく「燃やす」を選ぶのは笑うしかない。
「…………」
なので別にユウキ・麟の重大報告などに驚いたりしない。
ネット上の噂で結婚のお知らせではないかと囁かれても、小一時間程度真偽を確かめるために検索をかけるだけだ。
生放送の時間が迫ってきても少々の吐き気と頭痛、お腹を下すくらいの些細な悩みである。
『はーい、こんにちは。ユウキ・麟です。今日は事前に告知した、報告からお伝えしたいと思います!』
ゆらゆら動く立体モデルを食い入るように見つめる。
別に好みの女性ではない。現実では出会いたくない類だ。
しかしなぜか落ち着かない。胸の高鳴りで気分が悪くなってきた矢先。
『なんと! わたくしユウキ・麟は次回から〇〇会社公認の実況者に選ばれました!』
気が抜けるような拍手の効果音。肩の重みが一瞬で消えていく感覚。
パソコンの前に突っ伏すように倒れた矢吹は、この一時間後酒を飲みまくった。
「……ということがあってな。どう思う?」
「哀れだねー」
キンダイチ・斐文はまともに聞く気がなく、愛用の帽子を指先でくるくる回す始末だ。
大きな安心と一抹の寂しさ。そして膨大な喪失感を抱えた矢吹は今日も彼女の配信を眺める。
実は幼馴染みの女性――キリン・結城がユウキ・麟だと気づくのに、あと一年はかかりそうである。