今週の公開内容
誠の友情は真実の愛より難しい「TSドリームPart6」
目が覚めた。悪夢が終わったのだと、ぼやけた意識が伝えてくる。
内容はほぼ全部忘れている。ただ一部が反転した、歪な世界を垣間見た気分だった。
時刻は午前四時。六月の半ばだというのに、少し蒸し暑い。
「……」
寝起きは悪い方ではないが、状況把握に時間がかかっていた。
長い夢だった気もするし、終わってしまえば呆気ないものだとも思う。
しかし違和感が拭えない。一番大切なことを忘れているような――。
「……」
机の上に置いていた能力保有プレートが淡く光る。
銀の光が視界でチラついた瞬間、夢を見ていたことすら忘れてしまった。
ただ眠気だけが妙に強く、もう一度枕に頭を預ける。瞼が重く、思考もままならない。
そうしてスメラギ・真琴は、再び邪神の前に立っていいた。
二度目ともなると精神の削られ方も緩和されるが、首を真綿で絞められるような恐怖心がじわじわと広がっていく。
言語が通じる相手ではなく、意志の疎通もほぼ不可能。どうしようかと迷った矢先だ。
「それはプレートが記録した残滓だよ」
欠伸を噛み殺しながら、リー・茨木が指をさす。
「いわゆる幻影さ。ただ削除しなくては、侵食の足がかりにされかねない。しっかり砕いておくんだね」
「……えーと、どうやって倒したか憶えてないんだけど」
すっぽりと抜け落ちた記憶は、どんなに唸っても戻ってこない。
影法師とはいえ、相手は邪神。身が竦むのは当たり前だ。
「邪神は退けただけだよ。ただそれに関しては文芸本一冊分でも足りないから、割愛しとくね。とりあえず殴っておけば?」
「雑いなぁっ!?」
夢の中で寝ようとしている茨木は、なんだか頼りにならない。
腹を括って真琴は邪神の残影を殴った。霞に手を触れたような感覚が返ってきたが、それだけで消えてしまう。
黒い霧が薄く拡散し、気づけば「何」を殴ったかもわからなくなっていた。
「そろそろ起きたほうがいいよ」
「え?」
「遅刻しちゃうからね」
ウィンクまじりの忠告を皮切りに、激しい音が耳を突き刺す。
予定よりも三十分以上超過している。慌てて起き上がった真琴は、登校準備のためにベッドから飛び降りた。
夢の「世界」において、茨木の姿を借りた「もの」が呟く。
「まったく。世話の焼ける……これっきりにしてほしいものだね」
跳ねた金髪を指先で摘み、瞳孔が開いた緑色の瞳で癖を見つめる。
そして少年は夢の中から消え、どこかへと去っていくのであった。
星の危機を一つ跳ね除けたことを真琴は知らず、予想外の邂逅にも気づかず。
ただ目の前で発車しそうなバスへと大急ぎで飛び乗り、閉まるドアにシャツの裾を挟まれる羽目になった。