今週の公開内容
ミカミカミ「西の大国もややこしや」
「そういえば俺の叔父さんの話をしたっけ?」
外は雪。室内は暖炉の火によって暖かさに満ちている、穏やかな午後。
勉強に飽きたミカの発言は、教えていた側であるヤーの好奇心を刺激した。
「それって国王の?」
「母上の方。西の大国で貴族の爵位持ちらしいよ」
西の大国。レオナス家。騎士の家系であり、皇帝からの厚い信頼を受けている。
その当主の話題に、お茶を飲んでいたクリスの動きが止まった。武器の手入れをしていたオウガも同様である。
「母上が前に『我が兄は私が持っていない全てを、生来の素質として備えていた』なんて言っててさ」
記憶を掘り起こしながら、ミカはゆっくりと語る。
「けれど『しかし私は嫉妬など抱かなかった。むしろ同情と憐憫、哀れを誘う始末だ。天が与えすぎた結果とは残酷なものだぞ』って」
ミカの母親――第七王妃エカテリーナといえば、勇ましい美貌がまずは目に入る。
飾られた絵画には輝く金髪と同じ色の瞳が強調されているくらいだ。また先見の才能と知性を持ち合わせ、武勲も数多く残している。
まさに女傑。そんな女性の兄であり、ミカの叔父という条件が揃う。すると全く容姿が想像できなくなった。
「難しいよって伝えたら『魔性の男だ』って言われたんだよね」
ますますわからない。混乱が室内に充満し、ヤー達の視線は飾られている絵画へと向かう。
赤ん坊を抱える第七王妃。その立ち姿は威風堂々としており、とても流行病で死んだとは思えない。
「叔父さんを知ってるはずのコンラーディンおじさんに聞いたら、すごく怯えてた」
「なんでだよ?」
興味を持ったオウガが続きを促すと、わずかな言い淀み。
「確か『あれを正面から見据えて正気を保っていられる自信はない』とか」
それだけの勇猛な騎士なのか。クリスも前のめりになって聞いていた。
十六貴族の当主が怯える相手。戦場で出会うことを恐れ、たとえ目の前に存在せずとも思い出すだけで身震いする。
西の大国でも伝説になっているのではないか。ヤーがもう少し尋ねようとした矢先。
「でも俺は会うの難しそうなんだ。なにせ国王の首に傷を作った唯一の人だから、この国では要注意人物なんだって」
背筋が凍るような事実だった。国王の首級を獲る寸前まで追い詰め、そして今も無事に生きている男がいる。
もしかしてミカが疎まれている原因の一端なのでは――と、少し心配になるほどだ。
これ以上の追求は無意味と判断し、ヤーは勉強を再開するように厳しく注意した。