今週(先週)の公開内容
スチーム×マギカ「ハレンチデスワヨ」
「ふんどしって女子的にどうなの?」
少なくとも紅茶を飲みかけている相手に聞く質問ではない。
だがアルトという男はあえて空気を読まずに尋ね、紅茶を味わっていたユーナは盛大に咽せた。
「破廉恥ですわよ!? この野蛮猿!」
「いやいや。やっぱりモテるいい男としては、身嗜みに気を遣うべきだろ?」
にやにやと笑うアルトだったが、背筋に悪寒を感じとった瞬間に頭を下げた。
後ろ頭を貫こうとしたフォークが空を切り、壁へと突き刺さった。しかしそれは囮。本命は首筋に触れた先割れスプーンである。
犬耳執事の少年――ヤシロが汚物を見下すように、頸動脈を狙っていた。
「ナギサの教育に悪い」
「えー? チビ助も気にならねぇ? 天使ちゃんが好きな服とかさ」
先割れスプーンが皮膚を突き破るが、血管には届かない。
「きょ、興味……ない」
冷静さを装っているが、あきらかに声が震えている。
それを見逃すアルトではなく、意地の悪い笑みを浮かべた。
「天使ちゃんはどうなのさ?」
「え? 僕ですか?」
ユーナのカップに新しい紅茶を注いでいたナギサは、少し考え込んでから明るい大声で告げる。
「赤いふんどしってかっこいいと思います!」
床に先割れスプーンが落ちた。執事は顔を真っ赤に染め、両手で隠す。
哀れな少年に同情するユーナが話題を変えようとした矢先である。
「でも下着って邪魔ですよね。僕は蒸れるからそんなに好きじゃないです」
せめて二秒くらい思考してから発言してほしかった。とうとうヤシロは膝をつき、苦悩しはじめた。
過去は非道な暗殺者だった少年だが、現在は遅すぎる思春期に嘆いている。
あまりにも哀れであり、好意を抱いている少女の下着事情を妄想した罪悪感に苛まれていた。
「いっそ脱ぎたいです!」
「おやめなさい! はしたない!!」
さすがに見過ごすことができなくなったユーナが、半ば叫ぶように叱る。
ただでさえメイドにはあるまじき膝丈スカートに、連発する派手なドジの数々。ヤシロの心労が増えすぎて、下手すると命の危機だ。
現在進行形でうっかりメイドのノーパン姿を思い描いてしまい、執事は壁に頭を打ちつけはじめた。物理的に邪念を吹き飛ばそうとしている。
「ふんどしよりノーパンメイド……悪くないな」
「――ゆらゆらとゆらり」
横行する下ネタの勢いに耐えられず、ユーナは魔法で全てをうやむやにすることを決意した。
のちに近所のご婦人達から苦情が飛び交うが、少年執事の心の健康は保たれたのである。