今週の公開内容
ミカミカミ「変身物のお約束的な」
「決め台詞とか必要かな?」
多少の騒動を終えた、わずかな余暇の日。
雪が積もる庭先を眺めながら、真剣な瞳でミカが呟いた。
「……なんの?」
オウガとクリスがお茶菓子を用意しているので、本を読んでいたヤーが代わりに尋ねる。
ただし目は胡乱な感情を宿しており、明らかな与太話の予感にやる気が消失している。
部屋の空中を浮遊するアトミスと、灯篭の上を座るホアルゥ。和やかな空気が流れる中で、ミカは続ける。
「羽衣術で変身ぽいことするからさ。やっぱり口上とかあった方がいいかなって」
(ほあー、いいでしゅね。かっこいいやつがホアルゥは欲しいでしゅ!)
(僕は別に……)
嬉しそうに両手を広げるホアルゥとは対照的に、アトミスは素っ気ない態度で応じる。
ただし期待を込めた視線だけは何度もミカに向けているあたり、無関心ではないらしい。
「で、どういうのにするんだよ?」
菓子を載せた皿を手に、オウガが声をかける。少し固めに焼いたクッキーが甘い匂いを漂わせている。
「アトミスの場合だと――煌く氷を纏い、水晶の花を咲かせよう――とか」
沈黙。
ヤーは本を机の上に置き、ゆっくりと額を手の平で覆う。オウガの視線は暖炉の火に向けられていた。
そしてアトミスは空中で姿勢を崩し、足が天井に伸びていた。長い三つ編みの髪が床の上を滑る。
(あ、やっぱりホアルゥはシンプルイズザベスト的なのがいいでしゅ)
「じゃあ――燃え上がる心を秘めて、空へと羽ばたこう――は?」
再度の沈黙。しかも先ほどよりも重い。
ミカの黄金の瞳が少年らしくキラキラと輝いているせいもあり、ホアルゥでさえも言いづらそうにしている。
「……ミカ殿」
急須とカップを盆に乗せたクリスが、静かに声をかけてきた。
ようやくこの話題が終わるかと思われた矢先。
「それでは妖精のお二人の魅力が伝わりません! もっと長くしましょう!!」
「そっか。そうだよね!」
残念ながらボケが相乗された。
しかもクリスの幻想好きが暴走し、とてつもなく長い口上が継ぎ足されていく。
最終的にミカが「やっぱり覚えきれないし、レオがやめた方がいいって説得してきた」と言い、決め台詞の案件はお蔵入りとなったのである。