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SS9

今週(先週)の公開内容

スチーム×マギカ 「単純明快な事件の一幕」


 投げられた杖刀が男の側頭を目指す。黒い鞘先がぶつかる寸前、銃口が火を噴いた。
 下からの突き上げに、杖刀は呆気なく霧で隠れた空へと空回っていく。その下では一人の少女が敵へと人差し指を向けていた。
 
「――火花の如く弾ける石礫――」
 
 手の形だけで銃を模し、指先から赤魔法で作り上げた小石を撃つ。しかし狙いが甘い。男の足元、石畳に当たって砕けた。
 霧が揺れ動き、弾丸の軌道を描く。少女の肩を狙って、二発の弾丸が撃たれた。蒸気機関銃ではなく、火力を優先した鋼鉄銃。
 火薬の臭いが周囲に撒き散らされ、激しい破裂音が鼓膜を震わした。弾丸が服の表面を破るよりも先に、落ちてきた杖刀が勢いをつけて刀身を回転させる。
 
 二発の弾丸は弾き落とされた。石畳に埋まった鉄の弾丸を踏みにじり、手首を動かして杖刀を握りしめる。
 紫色の瞳が真っ直ぐに敵を睨みつける。煙草の煙を煩わしいと言わんばかりに表情を歪め、白魔法で強化した脚力で一気に距離を詰めた。
 銃を構えている男に動揺の色は見られない。むしろ獲物が近付いたことを歓迎し、今度は心臓へと銃口を向ける。
 
「悪いな。依頼主からは手加減するなと言われているんでな」
「ハンデを渡す手間が省けますわ」
 
 続けて三発。反動で狙いがブレるよりも速く、ほぼ一直線の弾道。
 見事な早撃ちを前に、少女が選んだ行動は跳躍。まるで鳥が飛ぶように、あっという間に男の頭上へ。
 建物の煉瓦壁を蹴り、街灯を足場に、橋の柵を踏み越えて。
 
「貴方にも理由があったのでしょうが――」
 
 始まりは小さな依頼。誰かの「助けて」に、人助けギルド【流星の旗】が応じただけ。
 人が集まる場所で起きた摩擦や、擦れ違い。あらゆる要因が、結果として対立を生んだ。
 誰もが理不尽に動くわけではなく、理由なく戦うのではない。正義と悪は立場を変えるだけで一瞬にして反転するように。
 
「わたくしは全力で叩き伏せるだけです」
 
 弾丸を装填するのを諦め、小型ナイフを手に。だが男がその行動を選択した時には、頭上で振り下ろされる杖刀が視界の半分を埋めていた。
 
 腰の革ベルトで杖刀を固定し、石畳の上に倒れた男を背に。少女は歩き出す。
 目指すは男が述べた『依頼主』がいる場所へ。とある事件の終着点に向かうのであった。

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