今週の公開内容
ミカミカミ「恋の味には鈍きもの」
「初恋？」
きょとん、と目を丸くしたミカ。
問いかけてきたのはオウガであり、彼の手には暇つぶしで選んだ小説本。
「なんだかんだで周囲に人間が多いだろ？ 一人くらいはいるんじゃないかと思ってよ」
クリスがお茶を入れる手を止め、ヤーも密やかに耳をすます。
内容次第では今後に大きな影響を与える。場合によっては思惑を張り巡らせなくてはいけない。
わずかな緊張が流れた直後だ。
「……好みでもいい？」
まさかのミカから発案に、ヤーの集中力が増した。しかしクリスは少しだけ安堵し、改めてお茶をカップに注いでいく。
「おうよ。で、どんなのだ？」
「小さい頃に会ったお姉さん達が優しかったから、年上とか結構好きかも」
「へぇ……年上好きかよ」
にやり、とオウガが意地悪く笑う。てっきり「可愛い子」など予想していたが、思いの外本格的な嗜好に面白さが増してきた。
再度、クリスの手が止まった。年上。城内にいる女性の大半が十五歳よりも上だ。つづく情報如何によっては気に留めるべきだ。
そしてヤーは自らの年齢を指折り数える。わずかな差ではあるが、ミカよりは年上であるのを確認する。
「五歳前後で会った……紫髪のお姉さんとか、よく叱られたけど優しかったよ」
「ふーん……そいつは今どこに？」
「確かアイリッシュ連合王国との交流会の短期留学で来てて……高名な魔導士のお弟子さんだったから……百歳近いとか」
「ババアじゃねぇかよ！？」
予想外の高年齢お姉さんの存在に、オウガが珍しく素っ頓狂な声を上げた。
クリスも急須を持っていた手が大きく揺れ動き、危うくお茶をテーブルクロスに零しそうになった。
「いやいや、外見はヤーと同じくらいだったよ？ そういえば雰囲気似てるかも」
「ババアと？」
「喧嘩売ってんの？」
流石に看過できなくなったヤーが睨みつけるが、怯えたのはミカだけだった。
「あ、あともう一人！ 綺麗なお姉さんがいたよ！ 琥珀色の髪でね、控えめで大人しくて……クリスに似てたかも」
「へーえ。ほーお。なるほどなぁ」
にやにやと愉快そうに笑うオウガの背後で、クリスが少しだけ照れた様子で頬を染めていた。
多少なりとも恥ずかしくなってきたミカが、軽い咳払いをしながらまとめ始める。
「ま、まあでも……俺を純粋に好きになってくれる人がいたら、それだけで嬉しいかな」
眉を八の字にして笑う少年。向けられた好意よりも、悪意の方が勝る人生。
「ちなみに魂の状態でわかったりしないのかよ？」
「うーん、色で好意や嫌悪は曖昧には。でも誰に対してかは推測の域を出ないな」
「だとよ。良かったな」
「なんでアタシに向かって言うのよ！？」
故に彼は少女のささやかな気持ちには鈍かったのである。