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SS2

今週の公開内容

ミカミカミSS「苦手なもの」

「そういえばよ、風の聖獣以外だとレオが苦手なのはどれだ?」
 
 暇を持て余したオウガの問いに、レオが心底嫌そうな表情を浮かべた。
 ミカの代わりに意識を表に出している元聖獣。威厳もなにもかも忘れたような顔で、呻き声に近い言葉を絞り出す。
 
「水の……ヒュドール・レーゲンだな」
 
 横で話を聞いていたヤーやクリスも驚く。オウガも例外ではない。
 水の聖獣といえばユルザック王国内でも信仰が厚い存在だ。
 特に約十年前の流行病「国殺し」と約五年前の大干ばつにおいて、水の聖獣による恩恵は計り知れない。
 
「高慢ちきの高飛車で、意識高い面倒な奴だ。いつでも『私がいるから世界は回っている。ふふん、感謝してもいいぞ』と無自覚で煽るのが腹立つ」
「ま、まあ……水は生命にとって必要不可欠ですから」
 
 クリスがフォローを入れるが、レオは苦悩を隠そうとしない。
 
「奴にだけは転生したことを知られたくない。絶対にだ」
「聞いているだけで面倒なのはわかるけど、そこまで?」
「おそらくだが『ほーう? とうとう私の世話を受ける身になったか。僥倖だな。幸せでうち震えるがいい』など言われかねない!」
「ああ、太陽の聖獣の時は水を必要としてなかったものね」
 
 考えただけで悪寒が走ったレオを余所に、ヤーは冷静に返事する。
 聖獣や妖精は精霊で体を構成している。故に、生物のような食事方法などは必須ではない。
 飲まず食わずでも生きていける。特に聖獣ともなれば、それが顕著だろう。
 
「自然の四大に関して、火と地には親近感があるからな。それくらいだ」
「その話については別の機会にするか。で、人参を早く食べろよ?」
「うっ……」
 
 ハンバーグランチを食べ始めて一時間二十分。そしてレオが人参と睨めっこを始めて一時間。
 オウガが話を逸らしてくれたのも束の間で、皿の端を指で軽く叩かれた。
 
「ミカなら食べてたわよ。好き嫌いはよくないわ」
「肉を食う時は嬉しそうだったのによ」
「頑張ってください、レオ殿!」
 
 三人の従者達に応援され、レオは震える手でフォークを掴む。
 彼が赤い野菜を口に入れるまで、あと十五分の時間が必要だった。

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