今週の公開内容
ミカミカミSS「苦手なもの」
「そういえばよ、風の聖獣以外だとレオが苦手なのはどれだ?」
暇を持て余したオウガの問いに、レオが心底嫌そうな表情を浮かべた。
ミカの代わりに意識を表に出している元聖獣。威厳もなにもかも忘れたような顔で、呻き声に近い言葉を絞り出す。
「水の……ヒュドール・レーゲンだな」
横で話を聞いていたヤーやクリスも驚く。オウガも例外ではない。
水の聖獣といえばユルザック王国内でも信仰が厚い存在だ。
特に約十年前の流行病「国殺し」と約五年前の大干ばつにおいて、水の聖獣による恩恵は計り知れない。
「高慢ちきの高飛車で、意識高い面倒な奴だ。いつでも『私がいるから世界は回っている。ふふん、感謝してもいいぞ』と無自覚で煽るのが腹立つ」
「ま、まあ……水は生命にとって必要不可欠ですから」
クリスがフォローを入れるが、レオは苦悩を隠そうとしない。
「奴にだけは転生したことを知られたくない。絶対にだ」
「聞いているだけで面倒なのはわかるけど、そこまで?」
「おそらくだが『ほーう? とうとう私の世話を受ける身になったか。僥倖だな。幸せでうち震えるがいい』など言われかねない!」
「ああ、太陽の聖獣の時は水を必要としてなかったものね」
考えただけで悪寒が走ったレオを余所に、ヤーは冷静に返事する。
聖獣や妖精は精霊で体を構成している。故に、生物のような食事方法などは必須ではない。
飲まず食わずでも生きていける。特に聖獣ともなれば、それが顕著だろう。
「自然の四大に関して、火と地には親近感があるからな。それくらいだ」
「その話については別の機会にするか。で、人参を早く食べろよ?」
「うっ……」
ハンバーグランチを食べ始めて一時間二十分。そしてレオが人参と睨めっこを始めて一時間。
オウガが話を逸らしてくれたのも束の間で、皿の端を指で軽く叩かれた。
「ミカなら食べてたわよ。好き嫌いはよくないわ」
「肉を食う時は嬉しそうだったのによ」
「頑張ってください、レオ殿!」
三人の従者達に応援され、レオは震える手でフォークを掴む。
彼が赤い野菜を口に入れるまで、あと十五分の時間が必要だった。