ツイッターにて毎週水曜日に宣伝を兼ねてのSSを公開することになりました。
毎週作品ランダムで公開し、ツイッターが最速となります。
なろうとカクヨムにおいては、活動報告及び近況ノートにて遅れて公開となりますので、ツイッターアカウントを持っていない人でも読めるようにしています。
(ツイッターの方は文庫本ページメーカーさんを利用し、画像形態で公開してます。こちらは行間なども少し変えた修正版です)
今週は以下の内容で公開しました。
スチマギSS「馬に蹴られる前に」
「そういえばお姉さまって初恋を体験しましたか?」
ナギサの唐突な問いに、ユーナは飲みかけていた紅茶を派手に吹き出した。
向かいに座っていたコージは、ヤシロから渡されたタオルで顔を拭く。
「…………どうしてですか?」
かなり間を置いてから尋ねたユーナに対し、ナギサは笑顔で答える。
「昨日見た小説に、恋路のライバルは潰すべきだと!」
大声で自信満々に。ドジっ娘メイドは拳を強く握りしめる。
ユーナが胡乱な視線をハトリへと向ければ、彼女は舌を小さく出して戯けていた。
美少女の茶目っ気溢れる表情を前に、負けを悟るしかない。
「そういうプライベートな質問をするならば、ナギサさん自身も答えを用意してますわよね?」
「え!? えーと……あわわわ、僕の初恋は」
ちらっちらっとユーナへと何度も視線を向ける。顔には熱が集まり、舌が上手く回らない。
明らかにわかりやすい動揺をしているナギサへ、ヤシロは無言で見守る。
犬耳執事少年の両肩に、それぞれ別の手が置かれる。
「恋路のライバルは潰すか?」
「自分は別に……」
チドリの言葉に、しどろもどろな返事。
「まあチビ助の方を応援してやらなくもないぜ?」
「お前の手助けが世界で一番不要なものだ」
アルトのからかうような口調には、はっきりとした拒絶を。
「でも、確か小説の中でその台詞を使ったのって、悪役の御令嬢よねん? それでナギサちゃんは良いのん?」
「あわわ! 駄目です! 僕は令嬢なんて立場とは程遠いですから!」
恐縮したナギサが勢いよく首を振るが、その場にいた全員が「悪役の方を先に否定するべきではないのか?」と考えていた。
改めて落ち着いて紅茶を飲もうとしたユーナだったが、
「で、ユーナくん。どうなのだ?」
まさかのコージからの追撃に、再度口に含んだものを吹き出す羽目になった。
「げほっ、ごほっ! こ、コージさんの初恋を聞いてからです!!」
「私か? 私は五歳くらいに近所の親切なお姉さんだったな。ありきたりな話だ」
朗らかに笑うコージだったが、ユーナとしては目論みが外れたことに歯痒い思いを味わう。
あっさりと答えが返ってきてしまい、こうなってはユーナ自身も白状するしかない。
だが百歳の初恋など、どう考えても常識外れ。下手な盛り上がりへと移行した瞬間、生き地獄を体験するのは必須。
「ほーれ、姫さん。素直になろうぜ?」
にやにやと笑うアルトが、ユーナの肩に腕を乗せた。
瞬間、杖刀が彼の顎に打撃を与えた。痛みと、吸われる魔力。気絶しかけたアルトは、力なく床に倒れる。
「次は野蛮猿の番ですわ! その次にヤシロさん! わたくしは最後にささやかに打ち明けさせてもらいますとも!」
「ず、ずりぃぞ……姫さ……ん」
なんとか話題を遅らせようとするユーナの言葉に、ヤシロが目を光らせた。
「自分は断る。どうしてもと言うならば」
「あらん? なんだか大暴れの予感かしらん?」
武器を構えた執事に対し、少女は杖刀で応戦しようとする。
不穏な空気が流れ始めた最中、借家の窓硝子が派手に割れた。
「往生せいや、あの時の恨みー!!」
「取り込み中ですわよ、ナイスタイミング!! では――ゆらゆらとゆらり」
突如として現れた不法侵入者に対し、怒りと称賛の声を出すユーナ。
そしてスタッズストリート108番の借家では、毎度の騒動がつつがなく繰り広げられるのである。
クイーンズエイジ1881の某月某日。霧煙るロンダニアの街中で、竜の咆哮が高らかに轟いた。