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【テクニカルエリア】北日本・全国への道・その3

 練習開始の15時までの間、峰木と夏木はビデオ室にいた。

 そこで見ているのは、8月に行われた練習試合である。

 それも、二軍のだ。

 夏木にとって楽しいものではない。一方的に打ちのめされた試合なのだから。

「夏木君、高踏高校が全国に出ると思いますか?」
「いや、さすがに全国はないと思いますが……」

 7-3というスコアは二軍だからやられた、というものではない。あの日試合をしていたら、スコアは別として一軍でも負けていただろうと夏木は思う。

「ただ、高踏があんなサッカーをするとは知りませんでしたし」

 そもそも、顧問がサッカーのことをまるで知らない真田である。

 昨年の実績はほぼ全敗。唯一、地域リーグで近くの高校に2-1で勝ったのが一試合あっただけである。

 むしろ、よく試合をしようと思ったし、峰木もOKしてくれたものだ、とすら思うほどだ。

「彼らはリーグ戦に参加せずに、いきなり高校サッカーの県予選に挑むのです。何か起こる可能性はゼロではないでしょう」
「そうですね……」
「ま、それはともかく、全国レベルで見てもここまで前から奪いに来るチームは存在しません。ここから更に練習して精度を高めていけば、二年後にはとてつもないチームになっていることでしょう」
「……そうですね」
「残りの二週間はこのチームを想定して練習をしていきます」
「……できるんですか?」

 言うは簡単であるが、高踏の戦い方は特殊過ぎる。

 これからの二週間でこの戦い方ができるとはとても思えないし、想定も何もできないように思えた。


「もちろん、我がチームがこの戦い方をすることは無理です。しかし、似たような状況を作ることは可能です」
「……似たような状況?」

 夏木は首を傾げた。

 無理だけど、似たような状況を作ることはできる。

 どうやって?


 15時、選手達が勢ぞろいした。

 コーチも並べて、全員集合の号令をかける。

 大会から二週間前、チームが好調ということもあり、全員気合が入っている。

 峰木がゆっくりとした口調で話を始めた。

「ここまでのチーム状況は良好です。ただ、高校サッカーは何が起こるか分かりませんし、我々はまだトップチームではありません。これから二週間、更に厳しい練習をしていきたいと思いますが、良いですか?」

 全員が一斉に「はい!」と答えた。

「それではAチームとBチームで紅白戦を行いましょう。五十嵐君はAチームを、夏木君はBチーム側で良いですか?」
「分かりました」

 Aチーム側に一軍が、Bチーム側に二軍が集まる。それぞれグラウンドに散っていくが。

「もちろん、単なる紅白戦では意味がありません。えーっと、下橋、田上、大本、藤原、佐久間。君達も入りなさい」

 Bチーム側の人員に修正を加えた。夏木が問いかける。

「誰と替えますか?」
「君達も、と言いましたよ。Bチームは16人です」
「えっ?」

 夏木だけでなく、入る5人も驚いた。

「Bチームは前からボールを取りに行くように。これだけ数的優位ですから、さすがに勝ってもらわないと困りますよ」

 そう言った後、今度はAチームの側に向かう。コーチの五十嵐と、主将の棚倉を呼んだ。

「五十嵐君、棚倉君、聞いていたかもしれませんが、Bチームは16人です。君達は11人ですが、この数的不利に耐えられるようになれば、全国でも通用するレベルになるでしょう」
「わ、分かりました」


 ミニゲームが始まった。

 Bチームが嵩になって前からかかると、Aチームはボールが全く足につかない。

 15分ほどの間に簡単にBチーム側が2点を取った。

 Aチーム側からは「いくら何でもこれは無理だ」という声があがる。不満そうな顔をする者も2、3人見受けられた。

 その時点で全員を集めて、ビデオ室に向かう。

 そこで先程のビデオを見せた。

 キャプテンの棚倉は一度見ていたが、Aチームもこの試合を観るのは初めてである。

「……先ほどのBチームが不当だと思うかもしれませんが、1年ばかりでこういうサッカーをするチームがある以上、絶対にありえないことではないわけです。逆に言うと、16人のBチーム相手に守ること、攻める手立てを見つけられれば、全国に行っても驚くことは何もありません。どうしますか?」

 峰木の問いかけに、「やります」という大きな声があがった。

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