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作品解説7――登場人物たちの言動を考察する

悠月奏です。
約1.5か月ぶりの作品解説ですよ(汗)
「考察」っていうか……自分の作品を考察するっていうのもちょっと変なんですが、そこはほら、タイトルの分かりやすさってことで笑


ともあれ「ゲノムの聖痕」もずいぶん話数を重ねてきました。

物語の根幹をなすのは、放射能汚染の影響でDNA変異を引き起こしてしまった「オメガ」と呼ばれる少女たちの生きざまと、それを間近で見守り続ける人々の群像劇です。


■自分に無関心なコドモと、声を上げないオトナ

彼女たちは、最初自らの持つ恐るべき異能の「負の側面」に何ら関心を示さず、当たり前のように人々を殺戮するモンスターです。可憐で瑞々しい彼女たちの見た目が、余計にその異常さを引き立てます。

いっぽう彼女たちを取り巻く人々、とりわけ主人公・石動士郎は、そうした「異常性」に、最初のほうこそ少なからぬ疑問を抱きますが、命令に忠実に従うことが当たり前の「兵士」という立場上、徐々に自らの思いに蓋をして日々を生き抜くことを優先するようになります。

自らに無関心な少女たちと、目の前の理不尽に声を上げない大人たち。

読者の皆さまが、本作品を読んで主に前半部分に違和感を感じることがあるとすれば、それは恐らくこうした図式を意図的に描いていることから感じるフラストレーションだと思います。


■「正義」を貫くのは簡単じゃないよね

確かに、自分の身近にこんな状況が野放しになっていたら気持ち悪いですよね……
でもじゃあ、誰もがそれを正そうと実生活の中でガチンコで戦っているでしょうか!?
――そんなことはあり得ない……と悠月は思うのです。

たいていの人は、たとえば電車の中でマナーの悪い人がいたとしても、面と向かって声に出して注意する、というところまでいかないですよね。心の中で苦々しく思っていても、なかなか実際の行動には結びつかない。

同じように、たとえば学校や会社で自分とは意見の合わない人がいて、その人のことを何とかしたいと思ったとしても、自らの立場(地位)を賭してまで公然と戦いを挑む人もなかなかいないと思います。

つまり、私たちは士郎と同じように「自分可愛さ」で外面を取り繕いながら、でもそんな自分がちょっと嫌だなと日々自虐するフラストレーションの中で生きているのです。


■思っている以上に自分って嫌われているかもしれない

いっぽうオメガの少女たちのような日常を送っている人もたくさんいるはずです。
自分では悪いと思っていないけれど、他人から見たら顰蹙を買っていることって意外にたくさんあると思うのです。
そんなことない、私は人畜無害だから……と自分では思っていても、人間、思いもしない相手から思いがけない恨みを買っていたりするものです。

でもだからといって、オメガたちのように「自分が一部で顰蹙を買っていてもそれに気づかない鈍感な奴」や、士郎のように「都合の悪いことには目を塞ぎがちな奴」が、とんでもない悪人かと言えばそれもまた違いますよね。
たいていの人は、話せば案外いい人だったり、心の中ですごく葛藤していたりする、ごくまともな人物だったりするのです。


■理解できない異質な相手でも、話せば案外マトモかも

だから、本作品も徐々に、オメガたち一人ひとりの過去だったり、揺れ動く感情、人情の機微みたいなものをしっかり描くようになっていきます。
つまり、一見自分とは相容れない異質な彼女/彼たちは決して得体のしれない「モンスター」などではなく、実は自分と何も変わらない、普通の感情を持った人間だ、ということを悠月としては描きたかったわけです。

特に第6章「矜持」では、わざわざ士郎のお父さんのエピソードを、過去を回想するというスタイルで描きました。これからますます物語の軸となっていく彼(士郎)の人格が、どういう背景で、どういう人物の影響を受けて形成されてきたのか、ということをお伝えしたかったからです。


■異質なものが交じり合うことで人は成長する

さらに、その辺りから徐々に、オメガたちの感情に変化が現れるようになります。
独特の閉鎖空間である〈立入禁止区域〉で生まれ育ち、軍に保護されてからは非情な戦場しか知らなかった彼女たちが、初めて「異性」を意識するようになる。

それが今後どれだけ彼女たちの「生きざま」に影響を与えていくのか、それを描くことが重要だと思っています。

当然それには、物語を進めていくための「必然性」が求められると思いますが、そこはもちろん「SF作品としての建て付け」がありますので、なんとか破綻せずに語っていきたいと思っています(切実)

いずれにしても、今まで「ひとつの価値観の中で生きてきて、物事の善悪や評価の軸足がひとつしかなかった」彼女たちオメガが、士郎たちと出逢い、さまざまな経験を積んでいくことで、「別の価値観」「多様性/多面性」「重層性」といったものに気付いてくれるようになればいいな、と思っています。

恐らく今後、そういうことに気付いて彼女たちが変化していく中で、オメガの秘密が明かされていき、彼女たちの存在理由も語られていくことになるんだと思います。

ちなみに今後は「量子力学」「人類学」「考古学」「宗教学」なんかにも話が広がっていく予定ですよ!
遺伝子工学、分子生物学、未来学あたりで収めようとしていたあの頃はいったい……(遠い目)


というわけで今回はここまでっ!
また次回お会いしましょうね
今後とも応援よろしくお願いします!!


あ……蛇足ですが、恋愛感情を含む心情描写シーン。戦闘シーンと同じくらい頑張りたいと思います!
きゅんきゅん来るような文章表現ができるといいなぁ……

コメント

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