3月掲載開始予定の長編『暗翳の火床』(※)のあらすじを先行公開します。
(※「暗翳=アンエイ」「火床=カショウ」と読みます)
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「ようこそ、我が〈地下炉〉へッッ!」
蒸気機関全盛のこの時代、最もその恩恵に浴した国があった。
都市国家、帝都。
世界で最も蒸気機関が普及したこの国は〈蒸気都市〉とも呼ばれ、
その工業力と労働力によって多大なる発展と発達を遂げていた。
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いまその帝都に一人の女が降り立つ。
蒸気機関の普及せぬ東の地よりこの帝都へ赴任を果たしたのは南海楓。
帝都に支部を置く組織の実務員である彼女は後輩の教導のため、
世界随一の都市国家へ初めて足を踏み入れたのであった。
初めての帝都となれば、見るもの、聞くもの、経験するもの、
楓にとってはなにもかもが新鮮で、
その煤煙のすさまじさにすら驚きと目まいを覚えてしまうほどだ。
そんな彼女は目もくらむような都会の落とし穴にはまったく気付かない。
こうした華やかな都市には日常的に犯罪がつきものだという落とし穴に。
赴任先へ向かう路地裏にて、楓は遭遇してしまう。
仮面を着けた詰襟姿の一味、犯罪組織〈黄金の幻影の結社〉の構成員たちに。
自分はなにか変なことに巻き込まれたのでは。
いやな予感を覚えながらも話しかけようとする楓は、
いきなり連中に襲いかかられてしまう。
そしてその出来事を影からうかがう特高――特別高度警察隊の目があった。
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いまその帝都では密やかに人さらいが起きていた。
東部市の人目のつかぬ通りにて、浮浪者が連れ去られているのだという。
だが現場は路地裏、被害者は浮浪者とあって、警察はろくに動きもせぬ。
犯行の陰には〈黄金の幻影の結社〉の構成員の姿がちらほら見えるという。
となれば看過していられないのが帝都探偵協会所属の探偵、
わけても坂下探偵とその仲間たちであった。
路地裏で〈結社〉構成員を撃退した彼らは、
先ほどまで襲われていた女性の安否を気遣い接触を図る。
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坂下探偵は楓が路地裏で見た存在について証言を求める。
すると楓はあれは『地縛霊』ではなかったか、などと言いだして……。
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それは一人の男の焦りからはじまった。
彼女はただ巻き込まれただけなのだ。
むろん、帝都では事件に巻き込まれるなど日常的であるかもしれない。
もっとも外国人の彼女にはそれが通用しない。
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◆諸注意◆
*本作は当倶楽部(ユーザー:蒸奇都市倶楽部)が発行する同人誌からの転載です。
*転載は著作権者が自ら行っておりますので権利上の問題はございません。
*本作は小説投稿サイト『小説家になろう』にも同日程で掲載される予定です。