📕「飯屋のせがれ、魔術師になる。」
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📖「第585話 ――ちょっと走ってくる。」
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https://kakuyomu.jp/works/16816927863114551346/episodes/16818093083328869855📄ドリーはネルソンたちから聞いたルネッサンスの構想について語った。
それはクリードの常識を根底から覆すものだった。
「魔術師、いや魔法師か? 魔法師と魔道具を世の中にあふれさせるだと? 一体どんな世の中になるんだ?」
クリードはかたき討ちだけを考えて生きてきた。その狭まった視野ではメシヤ流が企てるルネッサンスの全貌を把握できない。
狭い小屋に閉じこもっていたある日、ドアを開けて表を見ればそこに大渓谷が広がっていったような心持だ。
「話が大き過ぎてついていけん。ステファノはそんな計画に関わっているのか……」
「関わるどころか――ステファノこそがルネッサンスの中心と言うべきだろうな」
「あいつがそんな立場に……」
何一つ欲などなさそうな少年が世界を動かそうとしている。それに引き換え自分は復讐という欲に飲み込まれて生きた挙句、その欲にさえ裏切られてここにいる。
すべてを失って酒に逃れようとしている。
「何もかも失った。――いや、そうではないか。俺には初めから何もなかった」
9年前にヤンコビッチ兄弟の手によって家族を奪われた時に、自分はすべてを失った。そして、それ以降は何を得ることもなかったのだ。
「何も得ようとしなかった」
クリードは手の中のグラスをゆっくりとテーブルに置いた。
「亭主、水をくれ」
「どうした、クリード。もう終わりか?」
ドリーはグラスを口に運ぶ手を止めて、クリードを訝しげに見た。
「終わり? 俺はとっくに終わっていた。ステファノのおかげで終わりを終わりにする踏ん切りがついた」
居酒屋の亭主が運んできた水差しにクリードは口をつけてがぶ飲みした。腹の中の酒と、くだらない欲と、自己憐憫の塊を押し流そうとでもいうように。
肩で息をつき、口から水があふれるまで、クリードは水差しを傾け続けた。……
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お楽しみください。