花田菜々子著『出会い系サイトで70人と出会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』という本を読んで感銘を受けた。
出会い系サイトで出会った人にぴったりくる本をおススメするという活動をドキュメンタリー小説風に綴ったものです。
著者はヴィレッジヴァンガードの元店員さんで、たくさんの本を読んでいる人。体当たりエロ行脚ルポみたいなものを予想して読んだら裏切られた。
もちろん身体の関係を求めてやってくる相手もいるものの、それだけでなく同性も含めて作者はいろんな人と出会う。
その前に安冨歩さんの『生きる技術』という本を読んでて出てきた定式(自立=より多くのものに依存していること)を思い出した。
離婚の危機にあった作者は、出会い系サイトによって多くの繋がりを得ます。ひとつひとつはか細いつながりですが、誰もが(最低な人間さえ)なにかしらのヒントをくれるのです。
途中でコーチングを受けるシーンが出てくる。それはクライアントを否定せず、強制せず、本人の真の動機や喜びを探っていく作業でした。
そこで作者は思わず泣いてしまうのですが、そうか、と膝を打つ気持ちになった。僕はコーチングと正反対の精神が大嫌いだったんだとわかった。
つまり選択を迫る人たちです。やるの、やらないの? とか行くの? 行かないの? とか。ある選択に向かわせようとバイアスをかけてくるタイプの人たちです。
そういった圧の中でなされた選択は怯えや恐怖に基づいており正常なものではない。でもそういったバイアスに世界は覆われていて、そこから自由になれる人はごく一握りだ。
彼らは、臆病で決断力がなく、敗残者だと決めつけられることもある。みっともない存在だと見なされる。でもそれと戦う必要すらなくて、ただ在るがまま身の丈の心地よさに寛いでいればいいのだと教えてくれる。そんな本でした。
そんな身の丈の心地よさの中からこそ、本当の勇気と決断が生まれる。作中に描かれる彼女にとってのラスボス戦はまさにそういうものだ。