大好きだった作家ジーン・ウルフが亡くなった。
享年87歳。
うぐぐぐ、悲しい。
ここでも『書架の探偵』という作品に触れたことがある。
『新しい太陽の書』は何度も読み返したマスターピースである。
作家は生身の脆い人間なのでそのうちに消失するけれど、作品も読まれなけばいったんは消えてしまう。
これを期に未翻訳の作品をたくさん出版して欲しい。
『デス博士の島』では何度も同じ物語を読み返した少年が、先のページで死んでしまうことが知れている博士の死を目の当たりにするのがいやで、もう読みたくないと述懐する。
当の博士はこう慰める。
「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ」
素晴らしい物語はみんなそうだ。ウルフは技巧的な作家と言われているけれど、一番素朴な作家でもあった。
読むことが好きで、お気に入りの本を擦り切れるまで読む少年のような印象。
そんな人が書く物語もまた何度も読み返す価値がある
『新しい太陽の書』には名剣テルミネス・エストが登場する。
〈ここが分割線だ〉という意味のラテン語である。
生死の狭間には明確な分割線があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
ともあれ、作家は白刃の向こう側に去ってしまった。