はじめてっていつまでも覚えているものですよね。
はじめて先生に怒られた日のこと。はじめて人前で泣いた日のこと。はじめてゲームを買ってもらった日のこと。はじめて告白された日のこと。はじめて誰かを泣かせた日のこと。はじめて××した日のこと。
人それぞれ、自分にとって忘れられないはじめての出来事があると思います。
思い出せば嬉しくなったり、今の自分と比較してみたり、時に後悔してみたり。
もうちょっと上手くやれたんじゃないかな~ってありもしない未来への可能性を妄想してみたり、でも、あれがあったから今があるのかな~なんて、結局現在へと戻ってきての繰り返しの中で、一種の思い入れのようなものが生まれるんです。
今回は私が人生ではじめて完成させた小説
『ギャル神様の卍なお告げっ!』について話そうと思います。
そもそも私が小説を書いてみたいと思ったのは今から四年前。あんまり深掘りすると本題からそれちゃいそうなので簡単に言いますが、なんか暇だったんで始めました。スマホにあるメモ帳アプリさえあればできたので、今思えば小説って始めるだけならすごく簡単ですよね。
文章なんて生きていれば書く機会なんていくらでもあったので、新しいことをはじめる、という感じではなかったのを覚えています。
さて、この『ギャル神様の卍なお告げっ!』ですがタイトル通りギャルの神様がお告げをくれる話です。卍はよくわかんないです。
主人公が彼女欲しくて、ギャル神様が協力してくれる明るい作風です。
ギャルと同棲したらすごく楽しいんだろうけど、高校生で同棲ってすごく不自然というか、親戚同士の複雑なあれこれを説明するの面倒なので神様にしました。結局最後まで、主人公以外には見えません。
と、最初の構想はこんな感じ。
ただ小説の難しいところは、いくら構想や設定があっても最後まで続かないところなんですよね。
思いつくのは最初と最後ばかりで、そこまでどうするかがまったく想像つかない。
別に『ギャル神様の卍なお告げっ!』がはじめて書いた小説というわけではなかったです。そのほかに、食い荒らすように書いた2万文字前後もしくは5千文字にも満たない作品がいくつもありました。
完成させるのって本当に意味分からんような行為で、10万文字以上なんて無理でしょって思ってました。
そんなこんなでただ書くという行為に満足しながら1年経ちました。結局作品は完成しませんでした。
けど、ある日突然ピキーンって、耳鳴り、じゃなくて、頭痛、でもなくて、でもひらめきってわけでもない謎の音が頭を駆け巡りました。貧血だったみたいです。倒れて救急車に運ばれました。それから何度も体調を崩して病院通いの日々でした。
あ、これ死ぬんだろうなって感じでした。
そういうことがあると自然と人間ってこれまでの人生を振り返るんですね。
入院が決まったその日の夜、スマホを見ると友達から「ゲームしよ!」って連絡がきてました。
断るもなにもないのでうんちのスタンプを送って布団に潜り込みました。
そのゲームっていうのは、シリーズ通してもう10年以上遊んでいる某対戦ゲームなのですが、10年も続けるってすごいですよね。
継続は力なり、好きは才能、私を肯定してくれるような言葉はたくさんありました。
当然対戦ゲームなのだから目指すは勝つことです。いろんな人と戦って、大会に出て、優勝する! 10年も続けたらそれくらいしてもよかったかもしれません。
ですが驚くことに、私は10年続けているくせに中級者よりもちょっと上手なくらいの腕前でした。当然、大会なんてものに出たら本物の上級者にポコポコにされちゃいます。
それは自分でも分かっていたので大会には一度も出ませんでした。出る気もなかったです。
思い出したように上手くなりたい!と思い練習し、日が経てば楽しければいいかと友達とワイワイオンラインで遊ぶ。それを10年間。
すごいですよね。
ああ、生涯、全部こんな感じなんだろうな。そう頭によぎりました。
中途半端なんですよね。どれもこれも、上手いものはあっても誰よりも上手いわけじゃなかった。なにかの一位になったことは当然なくて、一位を争ったこともなかったし、志したこともなかった。
だからこれから先も、死ぬまでこういう中途半端な人生をおくるんだろうな。
病院の中だったからネガティブになっていたのかもしれません。
でも、ネガティブじゃないと気づけないことってあると思います。
継続は力なり、好きは才能。それって、言い訳をするときの文句じゃないと思うんです。
継続したからなんだ。10年続けたゲームですらこれだ。このゲームが好きだ。大好きだ。嘘つけ。才能なんてものがどこにある。
途端に怖くなりました。
だから決心をしました。
明日からは絶対に中途半端に生きるもんか。後悔しないよう、全力で生きてやる。
次の日、退院した私は思う存分ソシャゲをして寝ました。
不思議ですよね。人間の決心って、本当は自分じゃないどっかの誰かが会議で勝手に決めてるんじゃないでしょうか。そう思ってしまうくらいには他人事で、一夜で消えてしまうものなんです。
それから数ヶ月、惰性で続けていた小説がやはり上手く書けなくて、たしか「小説 書けない」みたいなワードで検索をかけたんです。
そしたら「とりあえず完成させてみよう」「駄作でもかまわない」みたいなことが書いてあったんです。
そのとき、あの日の決心がまたよみがえってきました。
決心ってのは頭の中の他人が勝手に決めていることなので、消えるのも突然、生まれるのも突然、なんですね。運ゲーですね。運ゲーは苦手です。でも、百回サイコロを振れば同じ目が続けて出るように、百回寝ればいつかのちょっとだけカッコいい自分がよみがえるものなんです。
今度こそって思いました。
ただ続けるだけじゃだめなのは、もうゲームで味わったから。
今更ゲームはどうしようもないかもしれないけど、小説だけは。
大好きな小説だけはそうなってたまるかって、筆を持ち直しました。
考えるのをやめました。単語を調べるのをやめました。
面白い話を書こうとするのをやめました。あっと驚かせてやろうという考えをやめました。
いろんなものをやめたはずなのに、どこまでも書き続けられました。
目指すは完成。誤字も脱字も、知ったことじゃない。完成。完成。
頭で何度も復唱しました。
結果、『ギャル神様の卍なお告げっ!』は完成しました。
できあがったときのことは今でも覚えています。
だって私の、はじめて完成した作品ですから。
「っしゃオラァ! 終わらせたぞアホ!」ってキーボードを叩きました。誰に言ってんでしょうね、過去の自分に、だったら、すごくカッコいいですよね。そうであってほしい。
今見ても、正直出来のいい作品ではありません。
設定も雑ですし、展開も粗だらけ。地の文を考えるのが面倒だったので台詞で誤魔化しまくりました。
時々、私の作品を気に入ってくださった方が過去作を漁ってくれて、当然この『ギャル神様の卍なお告げっ!』も読んでくれるのですが、そのたびに身もだえしています。超恥ずかしいです。
今にも消したいです。
でも、なんでしょうね。この作品、クオリティは本当に手放しにも褒められないんですが、何度読み返しても、なぜかすごく面白いんです。
どうしたらこんなに面白くなるのか教えてほしい。今より技術もなにもないはずなのに、なんでこんな面白いのか。
首を絞めて吐かせようとしても、頭の中のどっかの誰かはもういません。
はじめてって、本当の自分が出るものだと思います。
はじめてだから着飾る余裕もないですから、生まれた感情がそのままシミのように残ります。
はじめて先生に怒られたときは申し訳なくて何回もごめんなさいって謝りました。はじめて人前で泣いたときは誰かに助けを求めていました。はじめてゲームを買ってもらったときは親に抱きついて「ありがとう」って言いました。はじめて告白されたときは恥ずかしくて茶化しました。はじめて誰かを泣かせたときは自分も一緒に泣きました。
はじめてのあの頃の感情なんてもうとっくに捨てちゃいました。
怒られてるときは「なんでこいつこんな怒っとんねん」って思ってるし、人前で泣くようなことは絶対もうしません。したとしてもトイレかどっかに隠れると思います。抱きついてお礼なんて、もうできないしする気も起きない。
でも、それが自分の本当の感情なんです。
今は蓋をしてしまっているけど、はじめて感じたあの日の自分が、本当の自分なんです。
だから私はどんなに恥ずかしくても『ギャル神様の卍なお告げっ!』は消しません。この作品には私にとってのはじめてがおよそ10万文字に及んで書き記されています。
だからもし、今後どうすればいいかわからなくなったときはこの作品をまた読み返そうと思います。そうすればきっと、頭の中のどっかの誰かが勝手に決めてくれるだろうから。
作品に込められたものは、まぁこんな感じです。長くてすみません。今度はもうちょっとコンパクトにまとめようと思います(え、まだやるの?)
やります。
一応、『ギャル神様の卍なお告げっ!』で一番気に入っているシーンを抜粋します。
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俺はどうやら勘違いしていたみたいだ。わざわざ寒いギャグを言わなくたって、人を笑わせることはできるじゃないか。
もしかすると、ミコトはそのことを俺に伝えたかったのかもしれない。・・・・・・いや、それはないか。
そんなことを考えていると、ふいに山吹さんが俺の持っていた例の紙袋の中に手を伸ばした。
そして中からお菓子を取り出し、夕日を背ににこやかな笑みを浮かべて言った。
「えへへ、ありガトーショコラです」
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これは主人公がなんとか好きな子を笑わせようと、持ってるお菓子やらなんやらでギャグを言うんですが、なかなかヒロインの山吹さんが笑ってくれなくて。
放課後憂い気な顔をしている山吹さんに話しかけて悩みを聞いてあげた後のシーンです。
心が晴れた山吹さんが最後に主人公の真似をしてギャグを言うんです。
笑わせようとしてくれてありがとうみたいな意味も込められているのかなって思うと、あーかわいい!
普段ふざけないような真面目な女の子の激寒ギャグ、めちゃくちゃかわいいですよね。女の子のギャグは寒ければ寒いほどかわいい。
でも芸人みたいなボケばっかりする女の子のゲラも好きです。
はい、こんな感じです。
最近鼻炎がひどくて耳鼻科にいったら鼻に機械いれられてめちゃくちゃ気持ちよかったです。五分経って外されたけど、え、もう終わり?ってなりました。
この欲しがりさんめ!とムリヤリ突っ込まれることもなかったです。
近況ノート終わり!
サイコロの出目が揃うみたいに。
あの日のカッコいい自分がいつかもう一度出てきてくれたらいいですね。