https://kakuyomu.jp/works/16817330661500156606/episodes/16817330661782425031エミリー・ブロンテの詩のうちの21編だけが生前に発表されています。
姉のシャーロットと妹のアンの作品と共に、ペンネームを使って『カラー.エリス,アクトン・ベル特集』というタイトルで自費出版したものに含まれる21編です。この詩集はわずかに2冊しか売れず、大作家の本としては文学史上最も売れなかったものとして有名なのですが、それはさておき、この詩集が世に出た経緯は次のようなものだったそうです。
エミリーたち三姉妹は、パワースというイングランド北部の片田舎で、牧師の娘として貧しい暮らしをしていました。最初は私塾を経営して身を立てようとしますが.生徒が集まらずに挫折してしまいます。そんなある日、シャーロットが偶然のことから、エミリーが書きためていた詩を読んで、そのすぱらしさに驚きます。シャーロットは、後にこう書いています。
「1845年秋のある日、私は偶然。エミリーの書いた詩の原稿を見た。むろん、彼女が読を書くことも、また書けることも知っていたから、驚きはしなかったが、それに目を通した時、私は驚き以上の何かに打たれた。―これは平凡な感情の吐露ではなく、また普適の女が書く詩とはまったく違ったものだと私は強く信じたのである。緊密で簡潔で、力強く、純枠だと思った。私の耳にはまたそれが不思議な音楽でもあった。野性的で、憂鬱で、しかも心が高められるような……」
シャーロットは、これは世に出す価値があると考え、エミリーに相談します。エミリーは最初、無断で詩のノートを読まれたことに腹を立て,また自分の詩を公表することもいやがりますが、シャーロットに説得され、本名を出さないこと、シャーロットとアンのものも一緒に発表することを条件に出版に同意します。ころして、彼女はそれまでの作品の中から21編を選び、若干、手を加え、タイトルのなかったものにはクイトルをつけて、初めに述べたような形で発表することになったわけです。先ほども述べたように、この試みは失敗に終わったわけですが。しかし、このことは、後に『嵐が丘』という世界文学史上の大傑作が生まれるひとつのきっかけになったと思われます。
この特集のために選ばれた21篇は、エミリーが自分の最も良いものを選んだはずですから当然ですが、いずれ劣らぬ傑作ぞろいです。第2話「希望」、第4話「うた」もそのうちのひとつです。
第五話で、紹介した「老いた哲学者」はその中では最も短いもののひとつで、同時に放女の詩のうち最も有名なもののひとつでもあります。