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第4章 うたについて-エミリーとムーア

https://kakuyomu.jp/works/16817330661500156606/episodes/16817330661752541061

 エミリー・プロンテの詩を読むには、ムーア(moor)について知っておく必要があります。ムーアとはイングランド北能からスコットランドにかけて.いたる所に広がっている地形のことです。日本では「荒野」と訳されていますが、なにせ日本にはほとんどない地形なので、見たことのない人にその風景を言葉で設明するのは、非常に困難です。簡単に説明しますと、広大ななだらかな丘に。一面にヒース(hearth)またはヘザ (heather)と呼ばれる10〜20cほどの背丈の、木というより草に近い感じの灌木が生い茂っているのです(非常に強い酸性土のために、他の植物は育つことができないのだそうです)。丘の向こうにはまた丘が果てしなく連なっていて、見渡すかぎり同じような風景がどこまでも続いています。
 丘と丘の間にはムーアに降った雨が集まる川があって.その近くにはシダやマットグラスといった植物や、背の高い木の茂みもあったりしますが、丘には背の高い木はほとんどなく、大きな岩があったりする以外はどこまでもヒ―スが広がっています。いたるところに放し飼いの羊が.草を食んでいます。
 ヒースは8月の終わりから9月にかけて、いっせいに赤紫の花をつけ、その季節には、ミッバチが飛び回ります。
 エミリーの生れ故郷ハワースには、今でもエミリーの時代と少しも変わらないムーアが広がっています。エミリーは、このムーアを終生愛し、毎日のようにムーアを歩き回っていたそうです。
 ムーアは、常に彼女を元気づけ。インスピレーションを与えてくれる場所であったことは開違いありません。『嵐が丘』をはじめ、彼女の詩もほとんどすべてこのムーアが舞台です,『嵐が丘』の主人公の名前ヒースクリフというのは、「ヒ一スの崖」という意味ですし,ヒロインのキャサリンの荒野に対する憧れと情熱は.ヒースクリフに対するそれとほとんど区別がつきません。
 エミリーが、死ぬ間際、最後に望んだことは、ムーアに咲くヒースをもう一度見たいということでした。姉のシャーロットが雪の中から花がまだ残っているヒースをやっと見つけて持ち帰った時、エミリーはそれを見てかすかに微笑みました。そうして彼女は30年の短い生顔を閉じたのです。

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