まずは「通う千鳥の鳴く声に」(
https://kakuyomu.jp/works/1177354054934728311)の中で、主人公の一人である修之輔の過去と性格を明確にし、読者に印象を強く与えることを目的に描写したのが、以下の文章です。
――しばらくして、修之輔は家に自分以外誰もいなくなったことに気付いた。ここにいる意味はとうに失われ、何かを考えることはとても億劫だった。
離れたい。ただこの場を離れたい、せめてこの家が見えなくなるところまで。
錆びた太刀を持ったまま、修之輔は家の裏の崖を下りた。崖の下は川が流れている。この川を渡れば城下町、城下町を過ぎれば。
その先は分からなかった。
修之輔は足が掛かるまま、川の中ほどまで歩き、水が腰のあたりまであることにようやく気付いた。つま先で川底を探るとそこから先は急に深くなっていて、渡ることも、流れの速さから泳ぐこともできなかった。
“外”に出ることができない。その事実は修之輔の心をひどく疲れさせた。もう一歩も進むことができない。あの家には戻りたくない。ここから先は進むことができない。
曇天の空を映して太刀が鈍く光る。喉を突くぐらいの切れ味はまだ残っているはずだと他人事のように考えた。太刀の中ほどを手で直接握ると手の平の皮が切れて血が滲む。誰かに向けるべき刃を、己に突き立てようとする状況が可笑しいのか悲しいのか、もはや分からなくなっていた。いったい自分は、誰に、何を祈ればいいのか。
太刀を握る手に力を込める。手の平から流れる血が滴って、川面に落ちた。勢いをつけて己の喉に突き立てようとしたその時。後ろから川の中に突き飛ばされた。
「やめろ、修之輔」
大膳が修之輔の襟を掴み、水の流れに逆らおうとしない修之輔を自分もずぶ濡れになりながら岸にまで引き上げた。
「道場に、いつになっても来ないから、どうしたのかと思って迎えに来たんだ。いったい、なにが…っ」
岸で息を切らせて咳き込む大膳に、修之輔は礼でも謝罪でもなく、ただ聞きたかったことを聞いた。
「広川才蔵様と、よく話すのか」
「ああ、懇意にしてもらっている。しかしなぜそんなことを聞く」
何もかも、もう、十分だと思った。
考えることを放棄した修之輔は大膳に抱えられるように道場の師範のところまで連れて行かれた。
・「白鷺の血潮」(
https://kakuyomu.jp/works/16817139557019938589)
――「もしや、私がここにいることを忘れられたか」
自嘲が声音に含まれるのは隠しようがなかった。籐佐が突かれたように顔を上げた。
「そのようなことは決してありませぬ」
「何故そう言い切れる」
「川西様ならば必ず、忠孝様をお迎えに参りましょう」
「もし川西たちが館に戻る前に討ち取られていたらどうする」
「……それは」
川西を単純に信じ、それ以外の可能性を疑わない籐佐の単純さに、忠孝は腹の中に沸き上がって抑えきれない苛立ちを覚えた。
忠孝は衝動をそのままに、床に置かれた太刀を拾い上げてすかさず鞘から抜き、小屋の中で思いきり一振りした。
空を裂く音と共に思いがけない衝撃が腕に伝わってきた。
刃が、歪み傾いだ荒れ屋の柱に食い込んでいた。
柱に食われた刀を外そうとして思うようにいかず、忠孝の苛立ちは急速に膨張した。
素手で柱を叩き、蹴る。元から荒れて崩れかけた屋根からぼろぼろと萱が抜け落ち、木組みはみしみしと音を立てた。
いっそ壊れてしまえば良い。
言葉にならない獣のような咆哮でしか己の感情を発露できない忠孝の姿を見て、籐佐が土間から立ち上がった。
取り乱した主を見捨てて逃げるのか。
頭中を巡る白熱した憤怒を目から溢しながら、忠孝は籐佐を睨んだ。
立ち上がった籐佐は小屋の外には出ず、土間から床に上がって恐慌状態の忠孝の脇に立った。そして後ろから腕を回し、太刀の柄に張り付いた忠孝の両手に自分の両手を重ねた。
☆.。.:*・゜
……まるで成長の跡が見られない( ゚ω゚) っていうか嗜癖がいかんのか。
主人公の感情が強く発露するという同じ内容のエピソードで自分の文章を比較してみましたが。
むう。
ん~、修之輔が一人で抱え込むタイプで、忠孝は周りにあたるタイプという書き分けは出来ているかな?
自己満に陥ることなく客観的に自分の文章を見直すとき、自分の処女作と比較するのはなかなか有効な手段かと存じます、などと冷静を装いつつ、自分の恥を晒上げるというセルフ肝試しプレイにおつきあいいただき、ありがとうございました。