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暇つぶし続々11

 武器を見た後、シュバルトはヴァイスの日用品漁りを手伝った。

「水筒はサイズより頑丈さで選べ。デカければデカいだけ戦闘で邪魔だ」
「はい、教官!」

 水筒がなければ仕事中の水分補給がゼロなので、ヴァイスはこれまで喉がどんなにカラカラでも拠点に戻るまで水分補給が出来なかった。喉の不快感を潤すのもそうだが、水分摂取はコンディションに関わるので優先度が高い。

 続いてバックパックだ。
 ヴァイスは摘出ポットが収まっているポーチを暫くバックパック代わりにしていたが、これでは持てる物と持ち帰れる物が少なく不十分だ。バックパックがあればスカベンジした装備を運ぶのも大分楽になる。

「大は小を兼ねると言うが、最初はなるべく小さいのにしろ」
「頑丈なのじゃないんですか?」
「小さい方が早く荷物が一杯になり、それ以上欲をかかなくなる。持って行く荷物の量も自然と減る。買い換えるかどうかは自分の欲望と機動力を把握してからだ」

 物欲に囚われてでかい鞄にパンパンに収穫物を詰めたまま魔含獣に殺されて骸になったラッキースカベンジを何度もしてきたシュバルトにとって、便利とは欲望だ。欲望と理性のバランスが崩壊したとき、死のリスクは跳ね上がる。シュバルトのバックパックは中よりやや小さめ程度だが、これが身の丈に合う欲の量だと思っている。
 ヴァイスは少し疑問には思ったようだが、素直に小さなバックパックを購入した。

「さて、最後にこいつが重要なんだが……」
「はい!」
「スモークグレネードを必ず二つ以上買え」
「スモークグレネードって、目眩まし用の道具ですよね」
「そうだ。一個100マター、結構高い」

 弾倉が50マターなのでスモークグレネードはなんとその二倍、弾六〇発分に相当する使い捨て道具だ。ヴァイスの顔が明らかに渋くなる。

「二つ以上ですか」
「そうだ。最低でも二つ。これを常備して、戦闘中に取り出せる場所に収めておく。ポーチがいいだろうな」
「そのお金で弾丸が一二〇発買えるんですけど」
「その通りだ。逆に聞くが、一二〇発の弾丸と自分の命、お前はどっちを買う?」
「……そんなに意義深いんですか、これ? どうせなら爆発する普通のグレネードの方がいい気がしちゃうんですが」

 店頭のスモークグレネードの隣にある通常のグレネードを指さすヴァイス。
 確かにシュバルトも最初はそう思ったが、上級リテイカーが絶対にグレネードを持っていることから疑問を抱き、色々試して見た。その結果分かったのが、この筒一つで100マターはアザーの良心であるということだった。

「スモークグレネードの仕組みを説明する。このスモークグレネードはありとあらゆる魔含獣に有効な目眩ましだ。魔含獣が魔力を探知するタウス器官のことは知っているか?」
「はい。魔含獣の頭部に存在する器官で、空気中の魔力の流れや濃度を探知する器官ですよね? 我々が獲物を探すために使っているレーダーもタウス器官を解析して作られたものだった筈です」

 魔含獣は嗅覚や視覚もそれなりにいいが、生命活動に最も重要度が高い魔力を探すためにどれもタウス器官が発達している。他にも魔力を放出するエンデ器官というのもあるが、それは今はどうでもいい。

「スモークグレネードにはタウス器官を混乱させる物質がたんまり詰まっていてな。これを投げつけられると、俺の知る限りのどんな魔含獣だろうが一発で人間を見失う」
「はぁ……どんな魔含獣でも……ん?」

 イマイチ反応が薄かったヴァイスは、あることに気付く。

「もしかして、禁級(オーリ)魔含獣(オルス)にも効くんですか!?」
「ああ、効くぞ」
「歴史上誰も討伐に成功していない魔力の特異点にして告死の魔含獣に……!」

 魔含石は基本緑に近ければ近いほど純度が高いが、ある一定のラインを超えると色の識別できない純粋な光となる。その魔含石を持つ魔含獣は全身が白くなり、そして魔力の自己生成を可能とする。

 もしこの魔含獣を殺して魔含石を回収できれば、第二楽園計画は大きく動く。
 しかし、楽園の圧倒的な技術力を以てして、どうしても一度たりとも禁級の魔含石回収に成功したことはない。それだけの、余りにも個として圧倒的な力を有しているからだ。

 故に禁級、接触が死を意味する存在となっている。

 そんな魔含獣でさえ、タウス器官を封じられれば人間を見失う。
 これは恐らく、魔含獣がまずタウス器官で相手を認識し、それから視覚と嗅覚を用いて判別を行っているからだと思われる。もちろん煙と臭いも魔含獣を惑わすので余計に混乱し、リテイカーを一時的に見失う。

「だからこれさえあれば、どんなに危険な魔含獣が現れても絶対に目眩ましができる。俺が二つ買えと言った意味は分かるな? 最悪は二度起きることもあるってことだ。ちなみに俺は常に四つ持っているが……ポイントαで禁級魔含獣が目撃されたことはないから最低二つあればなんとかなる。ならなきゃそれがお前の運命だったってだけだ」

 ヴァイスはそれ以上シュバルトの判断に疑問を呈することはなかった。
 ただ、これだけ断言するということはシュバルトは禁級魔含獣を間近で見たことがあると言うことで、そこだけは万年ランクⅠの最低記録保持者(ボトムホルダー)という経歴と噛み合わない気がして疑問に思った。

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