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くろてんゲーム化エッセイ-30.世界包括神話-ギリシア編(3)

引っ越しで1週間ばかり空けてしまいました、申し訳ありません。なんとか引っ越し自体は済み、ほか買いそろえるべきものが多々あったり諸手続きを済ませなければならなかったりとありますが、ひとまず落ち着きました。というわけでギリシア神話続き、ヘラクレスいきます。

 ヘラクレスは紛れもないギリシャ神話最大最高の英雄ですが、高潔で洗練された完璧な人物像、とはかなり違います。というか酒好きで酒乱、一歩間違えば無法者タイプの乱暴者で、好色でもあり、何人もの嫁さんをとっかえひっかえしています。最後には奥さんの妬みで死ぬことになりますが、けれどその不完全・不洗練の泥臭さがかえってギリシャの民……支配者層というより市井の労働者たち……に受けたのだろうと思われます。ペルセウスのひ孫に当たり、父は一応アントビュリオンということになりますが実際には大神ゼウス。ゼウスにとっては自分が昔手を出した女(イオ)の子孫の嫁にまた手を出したわけで、この神様ほんとにエロ助だなぁと、全然偉い神様の印象がないわけですが。
 ちなみにアントビュリオンはミュケーネの主たるべき人物なのですが、あるとき狩りのさなかに誤って叔父を殺してしまい、その咎から(現代社会でもそうですが、古代社会において近親殺人の罪はきわめて重かったため)王位を返上してさすらい、テーバイ身を落ち着けました。ここでアントビュリオンは「決して捕まらない狐」を「必ず捕まえる犬」によって捕え、さらにタボス島遠鉦を成功させて凱旋しますが、ゼウスがアントビュリオンの妻アルクメネーを見初めたのはその凱旋前夜です。アントビュリオンに変身したゼウスはアルクメネーと同衾し、この胤から産まれることになったのがヘラクレス。一緒にイービクレスという弟も生まれましたが、こちらは普通の人間でした。

ところでヘラクレスは全ミュケーネの王となるはずの存在でした。「今度最初に産まれたペルセウスの子孫が全ミュケーネの王となるであろう」というゼウスの予言がありましたので。しかしそれを逆手に取った女神ヘラが同じくペルセウスの子孫に当たるエウリュステスを先に生まれさせたため、ヘラクレスは一生、エウリュステスに使われ無理難題を吹っかけられる運命を背負うことになりました。

さらにヘラの嫌がらせは已みません。8ヶ月の嬰児ヘラクレスに二匹の毒蛇を送り込み、咬ませようとします。しかしこれはさすがのちの大英雄というか、ヘラクレスによって逆に引きちぎられてしまいますが。このときイービクレスは逃げ出したのにヘラクレスは立ち向かったと言うことで、アントビュリオンはヘラクレスが神の子であると悟ったと言うことです。

成長したヘラクレスはアントビュリオンからは戦車の技を、アウトリコスからはレスリングを、エウリュトスから弓術を、カストールからはその他の武器術を学びました。しかし楽人オルフェウスの兄弟リノスに竪琴を習ったときは、不器用と罵られて怒り、彼を打ち殺してしまいます。このあたりから彼が後世発揮することになる狂疾の片鱗がうかがえますが。

 成長したヘラクレスは身の丈180センチを超え、膂力絶人、燃える瞳を持ち、弓も投げ槍も百発百中。勇敢ながら驕慢な人格となり、父アントビュリオンはこれを矯正させようとしますがなかなか堪えません。19歳の時、キタイローンの山に棲む牛殺しのライオンを殺したヘラクレスは以後その毛皮を衣服とし、獅子の頭を兜としてかぶることにしました。その帰途においてオルコメノス王エルギノスの使者がテーバイに貢ぎ物をとりたてるべくやってきたのに出会い、これを殺しました。怒ったエルギノス王は軍勢を差し向けますが、ヘラクレスはテーバイの民を指揮督戦し、エルギノスを殺した上オルコメノス国からテーバイが搾り取られていた2倍の貢ぎものを貢納させることに成功しました。この武勲によりテーバイ王クレオーンから娘メガラを賜り、妻帯します。

 しかし女神ヘラのねたみから「狂気」の女神を送り込まれたヘラクレスは自分の手でメガラと子供たちを打ち殺してしまい、悲嘆に暮れてテーバイを去り、旅に出ました。のちデーイアネイラと結婚し、さらにずっとのち彼女が原因でヘラクレスは命を落とすことになりますが、その前にティーリンスに赴いたヘラクレスは、傲岸卑劣で臆病な叔父エウリュステス王の命ずるままに「12の難行」をこなします。その難行は以下の通り。
1・メネアの紙誌の毛皮を取ってくること
2・レルネー湖畔の怪物ヒュドラ退治
3・ケリュネイアの鹿を生け捕ること
4・エリュマントスの猪の生け捕り
5・アウゲイアース王の厩の掃除
6・ステュンパロスの森の鳥を追い払うこと
7・ポセイドンが遣わしたクレタ島の雄牛を連れてくること
8・トラキア王ディオメデスの牝馬を捕えること
9・アマゾン属の女王ヒッポリュテの帯をとってくること
10・ゲリュメネスの雄牛たちを連れてくること
11・ヘスペリデスが守る黄金リンゴを取ってくること
12・地獄の番犬ケルベロスを捕まえてくること
 これ全部書き上げてたら大変ですしまあ、資料の丸写しになるのもつまらんだろうということでいくつかピックアップで。ヒドラ退治とケルベロスの拿捕はめっちゃ幽明なので外すとして、クレタの雄牛と黄金のリンゴで。

・クレタの雄牛はミノス王の不敬に怒ったポセイドンが遣わした猛牛で、別伝ではもともと、ポセイドンから送られた大人しい雄牛だったのですけどもミノス王がこの見事な雄牛を生け贄に捧げることをしなかったので凶暴にされたということです。どちらにせよ獰猛な牛ですが、ミノス王はそれでもなおこれを大事にしており、ヘラクレスが談判にやってきても冷淡に拒みます。ヘラクレスは勝手にこれを捕えてエウリュステス王に献上しますが、のちこの雄牛は放たれてアッティカの英雄テーセウスに退治されることになります。というかヘラクレス伝説とテーセウス伝説は非常に似通っている部分があり、おそらくどちらかが片方を模倣したのでしょうけども。

ヘスペリデスの金のリンゴ、これは11番目の功業ですが、本来ヘラクレスがなすべきは10の功業だったのです。しかし8年半かけてヘラクレスが10の功業を達成してしまったので、エウリュステス王はヒュドラ退治とアエゲイアスの厩掃除は独力でこなしたわけではないから、と難癖をつけて剥こうにしました。ために急遽付け加えられることになったのが金のリンゴとケルベロス捕獲です。

 この功業をなすためにヘラクレスは軍神アレスの息子と一騎打ちして引き分け、さらにエリダノスの河口から海の老人ネーレウスを捕まえてヘリスペデスの仙境に行く道を案内させ、リビア、エジプトを越えてアフリカ西端にいたってアトラスの国にいたり、この地でアトラスに変わって天の蒼穹を支え、その間アトラスに3つのリンゴを取ってこさせた、といいます(別伝では自ら出かけて100の頭を持つ不死竜をどうにかして殺し、リンゴを奪ったとも言います)。ヘリスペデスの苑は仙境であり、そのリンゴは不死の象徴であり、これを口にしたことでおそらくヘラクレスは不死者の列なにならびます。前後してプロメテウスの心臓を啄む大鷲を殺したり、大地の子アンタイオスをレスリングのすえ殺したりドリュペオウ族の王ティオダマスの軍を破ったり、オリンピックを創始したりと英雄的功業をなしますが、その間自分を信じて味方についたイービトスを酒乱で殺してしまったり、小アジア・リディアの女王オンパレーに奴隷として売られたり、過去自分を拒絶した相手を責め殺したり、最後は攻め落とした相手の王の親族エアノモス使用年を過失で殺してしまったりと、およそ英雄的ではない失態の数々も重ねます。そして祭儀のために妻・デーイアネイラに使いを送って礼服を送ってくれるよう頼むと、デーイアネイラはヘラクレスの新妻イオレー(ヘラクレスは冒険の先々で妻をめとり、数多くの子孫を残していますがそのひとりで一番若く美しかった女性)への嫉妬に駆られたデーイアネイラは、礼服の下着にかつてヘラクレスが殺したヒュドラの地を塗りつけて送り、大喜びでこれを身につけたヘラクレスはヒュドラの猛毒で瀕死になります。猛毒の激痛に苦しみ、着衣を力尽くで引きはがそうとすると肉がちぎれて剥がれ落ちました。あまりの苦しみで、ヘラクレスは自ら死を選びます。ただ、普通に死ぬことは出来ない不死の身であるため、オイテー山上に薪を積み上げ、そこに寝て、近隣の領主ポイアースにひょつけてもらいって身体を焼き尽くすことで、ようやく死ぬことが出来たのでした。そして天に帰ったヘラクレスはまた若く美しい青春の女神ヘーベーと結婚して幸せに暮らしたと言いますから、懲りない好色さなのでした。

以上、ヘラクレス篇でした。12の難行、全部書きたい気持ちもありますがとりあえずこれで。次は「イーリアス」のあらすじをやって、ギリシャ神話はそのくらいで。「オデュッセイア」までやると情調になりますので。

あと、ようやくゲーム化……というかゲームの販促用音声作品について、今月末ごろに発表できそうです。声優さまの芳名、はやく発表したいのですが完成して音響制作事務所さまに確認してからでないと発表できないのですよ。これが結構ストレスでした。では。

2件のコメント

  • ゲーム化進んでいますねえ(●´ω`●)
    引っ越しもお疲れ様でした。遠蛮さんが早く新生活に慣れて本格的にゲームに本腰入れられるようになるのを望みます。
  • ありがとうございます!
    ようやく引っ越し、荷ほどきと組み立ても終わり、いよいよ創作に本腰……なのですがまだ国政との交渉がありました。ほかはもう、家事さえこなせば自由なのですけども、家事の過酷で大変なこと。過去の母の労苦にいまようやく思い至っています。

    ゲーム制作のほうもいちおう、順調ですが、シナリオ自体はともかくその分岐方がですね、「最初に主人公を善人にするか、悪人にするかの選択制」と「ゲーム内選択肢による分岐」とで少し迷い中です。当初は後者で考えていたのですが、「純愛ルート狙いのはずが鬼畜ルートに入った」ということを避けるためには前者にした方がいいのかなと。
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