角川ホラー文庫では『あやかしの鼓』に続いての、怪奇幻想に「焦点(フォカス)を合わせる」傑作選。日本幻想文学集成やふしぎ文学館などで久作はあらかた読んだつもりだったが、まだまだ未読のものがあったようで本作も楽しく読めた。
なかでも手術で右足を切断されたのを機に己が夢遊病状態で犯罪を行ったのではないかと強迫観念に苛まれる青年の物語「一足お先に」は、その夢とも現(うつつ)ともつかぬ曖昧模糊さが「ドグラ・マグラ」の堂々巡り感を思わせて、両作の間に何か相互影響的なものがあったのでは……などと興味深かった。
もっとも、「ドグラ・マグラ」は推敲に推敲を重ねての執筆期間が長く、狂気テーマの作品は他にも沢山あることから、久作マニアの方々からみたら見当違いな感想かも知れない。